第22話

北の冷たい風がびゅうっと横切った。

強風に煽られたボールが揺れて、落下点からそれた球を私は追った。


ボールをよく見て、足を使って。


腕を伸ばすと、ぱしん、とボールは私のグローブに収まった。

私たちを照らす秋の日差し。

眩しくて、とても温かい。


私はふと、ずっと疑問に思っていたことを尋ねることにした。


「ねえ、あのときなんて言ったの?」


「あのとき?」


「私がパトカーに乗せられたとき」


陸くんは少し間を置いて、やがてああ、と思い当たったように答えた。


「『負けるな』って」




――晴!! 負けるな!!




「……そっか」


私はボールを高く投げた。

きれいな放物線。

今日いちばんうまくできた投球かもしれない。


彼はそれをしなやかなフォームでキャッチした。


「晴は進路決まった?」


陸くんは軽くボールを投げて尋ねた。

彼の投球フォームはいつだって美しい。

私のグローブがぱしん、と鳴る。


「……まだ分かんない」


「じゃあ、決まったら教えろよ」


ふ、と笑った陸くんは言った。


「応援するから」


うっかり涙が出そうになったのを悟られないように、私はボールを返しながら小さくうん、と答えた。

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