第21話
「私、だめなの」
ボールを投げる。
動きながらだと、つい本音が出てしまう。
「誰かを傷付けたり、怖がらせたりしたくないのに、いつも失敗するの。今回もそう。子供に怪我させて、いろんな人に迷惑かけて……こんな能力、どうしてっていつも――」
「でもあれは、晴じゃないと助けられなかっただろ」
ボールをキャッチした陸くんはそう言った。
「晴がああしなかったら、あの子は切り傷程度じゃ済まなかった。俺の力は弱いし、晴にしかできなかったことだと、俺は思う」
陸くんは軽いようにボールを投げた。
「だめだったことじゃなくて、できたことを喜ぼうぜ」
私が反射的に腕を伸ばすと、グローブがぱしん、と鳴った。
どきどきした。
こんなことを言われたのは初めてだ。
だめだったことじゃなくて、できたこと。
迷惑をかけたことじゃなくて、あの子を助けられたこと。
ぼうっとしていると、陸くんは早く投げろ、と言わんばかりに手で合図する。
私は慌ててボールを投げ返した。
「俺さあ、ギフトの研究ができる大学に行こうと思うんだ」
彼は私のコントロールの外れた球を難なくキャッチした。
「晴みたいに力を制御できなくて困ってる人や、俺みたいに能力のせいで何かを我慢するような人がいなくなるような研究をしてみたい。っていうか、する」
宣言すると、彼はグローブの中のボールを見つめた。
あちこち汚れて使い古された白球。
彼のこれまでが垣間見えた気がした。
「俺は正直、自分のギフトの活かし方って今も分かんないんだ。でも、ギフトに振り回されてる俺だからこそ、できることがあるかもしれないって今は思う」
陸くんはまっすぐに私を見ると、大げさなくらい大きく右手を振りかぶる。
「そう思わせたのって晴なんだぜ」
陸くんはぽぉんと高く高くボールを投げた。
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