第20話

私たちは家の近くの公園で、彼の誘い通り2人でゆるくキャッチボールを始めた。

寒いと思ってジャケットを羽織ってきたけど、今日みたいな小春日和に体を動かしていると意外と暑い。

陸くんもだんだんと暖まってきたみたいで、やがてブレザーを脱いでシャツを捲った。


「けっこううまいじゃん」


陸くんはボールを高く投げながら褒めてくれる。


「陸くんが教えてくれたからだよ」


私はそれをキャッチする。

高くてゆっくりの球なら、もう怖がらずに捕えることができる。


何回かそれを繰り返して、やがて私は切り出した。


「なんでうちに来たの」


私はボールを投げた。

体を動かしながらだと沈黙しないから、余計な緊張をせずに話すことができる。


陸くんはボールをキャッチする。

ぱしんと軽快な音が鳴った。


「晴と話したかったから」


どき、と胸が鳴る。

私と話したかった。

陸くんが。


陸くんは右腕を大きく振りかぶる。


「晴ってギフト2つ持ってんの?」


陸くんはゆっくりと高くボールを投げた。

ああ、うん、まあ、話すってそういうことだよね。


球はきれいな放物線を描いて、ぱしん、と私のグローブに収まった。


「そう。『旋風』っていって、風を起こすギフトがあるの。珍しいんだって」


私も高くボールを投げる。

私の球は陸くんに比べてどこかふにゃふにゃとして不安定だ。

だけどボールは陸くんのグローブにきれいに吸い込まれる。

ぱしん、と音が鳴る。


「いつもあんなに荒れるわけ?」


陸くんのボールがまた飛んでくる。

私は腕を伸ばして、それを捕らえた。

グローブが鳴る。


「感情が昂ぶったときだけだよ。ギフトを怖がられたり、邪険にされたり……今まで何度も失敗してきたの。あそこまで酷いのは初めてだったけど」


「ふーん」


私がいくら暴投しても、彼は慣れたようにキャッチする。

ひょいと手を伸ばしただけで、簡単に捕れているように見える。


でも彼がこうやってどんな球も捕れるようになったのは、それだけ努力をしたってことだ。


ボールをよく見て、足も使って。

そう人にアドバイスできるほど、人よりもたくさんたくさん、練習をして。


……私は、努力しても「旋風」の力をコントロールできるようにならなかった。

感情はどんなに頑張っても隠せない。

常に平常心を心がけていたけど、いつも近くに風があった。

それが自然発生したものなのか、自分が起こしたものなのか、判断は私にもつかない。


「キャッチボール中は考えこと禁止。怪我するぞ」


はっと空を見た。

彼の投げた球がすぐ頭上にあって、私は慌てて腕を伸ばした。

ぱし、といい音が鳴る。

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