第16話

――晴ちゃん、気持ち悪い


そう言われたのは小学校の1年生のときだ。

一輪車で転んで怪我をしたエマちゃんを治したら、気持ち悪いって言われて逃げられた。





――骨折は治せねえの? 使えねー


あれは4年生のとき。

サッカーの練習で足の骨を折った伊藤くんに治してって頼まれて、断ったらそう言われた。





「……い、…………る……」





――晴ちゃん、また病院? 堂々とサボれてほんと羨ましいよね


6年生のとき、ギフトの検査があって学校に遅れて行ったら、友達だと思ってたチカちゃんが裏でみんなにそう言ってるのを聞いてしまった。





――中間考査、始めるぞ。河谷は別室に移動な


中学では、テストもみんなと一緒に受けられないって知った。

不正なんか、したくてもできないのに。





「し……ろ……、る…………」





――治癒のギフト持ってるんだって? じゃあ自分の怪我も治せるよね


2年生のとき、先輩に呼び出されて生意気だって理不尽に殴られた。

平手打ちされた頬の腫れは、自分では治せなかった。





――河谷さんはギフトをお持ちなので、ギフトに特化した高校に行かれたほうが良いかと……


進路を決める三者面談で、私は高校を好きに選ぶ権利もないんだと知った。





「きこ……か、し……しろ……る」





――ずるい


――羨ましい


――気持ち悪い


――変なの


小さい頃からいろんな人にいろんなことを言われてきた。

あからさまに怖がる人、自分勝手に利用しようとする人、必要以上に崇める人、興味本位で近付く人。

みんな私のギフトを見ていて、私を見ていない。

私は私なのに。

私はギフトを持った、河谷晴というひとりの人間なのに。





――晴





遠くで私を呼ぶ声が聞こえた。





――晴、あなたは優しい子ね。人の気持ちを慮れる、思いやりのある強い子だわ





温かくて優しい声だ。

この声を聞くといつだってほっとした。





――晴にとって良いことと、みんなにとって良いことは違うかもしれないから、むつかしいわね





そう、その通りだ。

私はいつも間違えた。





――でもね、晴。迷ったときはあなたが正しいと思うことをしなさい。間違うことを恐れないで。人生は何度だってやり直せるんだから





「……おかあさん」





頬を、涙が伝った。

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