第15話
考えるより先に声が出た。
突如、何もかもを巻き上げるような爆風が男の子を包みこんだ。
飛び交う小石、草花、川の水。
全てがぶわりと渦を巻いて高く飛ぶと、宙の高い場所でひとまとめになり、やがて小さいものから雨のごとくぽとぽとと落ちてきた。
その一番最後に、あの男の子が風に守られるようにしてそっと河川敷に下ろされる。
ふわりと無事着地した男の子はきょとんとして状況が飲み込めていなかったけど、驚いたのか、徐々に瞳が潤み、やがて火がついたように泣き出した。
「きみ! 大丈夫――」
私が男の子に駆け寄ろうとしたときだ。
「来るな、化け物!」
女の人の強い声が遮り、私は動きを止めた。
「今の、あなたがやったの!?」
さっきまで奥で話していた、この子の母親らしき女性が男の子に駆け寄るなり糾弾した。
私は剣幕に押されて何も答えられない。
「コウちゃん、大丈夫? 怖かったね、もう大丈夫よ」
母親は泣きじゃくる男の子をぎゅっと抱きしめると、あちこち触って異常がないか確かめる。
「やだ、怪我してるじゃない!」
男の子の腕には大きな切り傷ができていた。
風に囲まれたときに、小石か木の枝がぶつかったのかもしれない。
「わっ、わたしっ、治せます」
「コウに近付かないで!」
母親は鋭く睨みつけた。
「人の子供に怪我させておいてよくそんな嘘言えるわね。これだからギフトって気持ち悪いのよ、何をしでかすか分からないから」
「嘘なんかじゃ……!」
彼女は腕にできた切り傷を持っていたペットボトルの水で洗い流し、ハンカチで丁寧に巻いていく。
一緒にいた彼女の友達らしき女の人は泣きじゃくる自分の子供を抱きしめながらスマホで誰かと話している。
警察、とか救急車、とかいう単語が聞こえてきた。
「仮にあなたが怪我を治せるギフトを持っていたとして、わざと怪我させた可能性だってあるわよね? たとえば、お金目当てとか」
「おい、それは言いすぎだろ!」
いつの間にか河川敷に下りてきていた陸くんの声がする。
「本当のことでしょう。それに力をコントロールできなかったら、今みたいに誰かを巻き込んで怪我をさせるじゃない。そんな不安定なもの、迷惑以外のなんだっていうの」
「……」
だんだん目の前が暗くなっていく。
私は何も言えなかった。
「それに2つもギフトを持ってるなんて聞いたことないわ。あなた呪われてるんじゃない?」
くす、と勝ち誇ったように彼女は笑った。
景色が揺れる。
頭がくらくらする。
ぜんぶ、どこか遠い世界のことみたいだ。
胸が苦しい。
気持ち悪い。
体が冷えて震えている。
「おばさん、いい加減に――……!」
陸くんの荒げた声を聞くと私の視界は暗転し、やがて轟音が包み込んだ。
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