第13話
「俺、ギフトの検査は休みの日もやってる個人クリニックに行ってるから」
陸くんが突然口を開いたので、私はびっくりして隣を向いた。
「
「晴でいいよ」
「……晴も、わざわざ大学病院じゃなくてクリニックで検査すれば、授業休まなくていいのに」
「ソウデスネ」
容赦ないツッコミに私はがくっと力が抜けた。
うん、いや、ほんとその通りだ。
その通り、なんだけど。
「ま、個人の自由だよな」
言うと、陸くんはふう、と息を吐いた。
「俺、後天性のギフトなんだ」
彼の告白に、私はえ、と声が出た。
「ギフトがあるって分かったのは中学のとき。野球の地方大会の翌日に高熱が出て、検査したら弱いけどギフトがあるって言われた」
「……そうなんだ」
後天性のギフトっていうのは例が少ないはずだ。
生まれつきギフトを持っている私と比べて、いきなり出現した特殊な能力に戸惑いが大きかったに違いない。
陸くんはおもむろに、持っていた野球ボールを手のひらの上にふわ、と浮かべた。
ボールは緩く回転しながら、彼の手の上で安定的に留まっている。
「ギフトって言ったって、こうやってほんの数十センチ、軽いものを浮かべる程度の能力だぜ? 重い荷物なんか運べないし、自分が空を飛べるわけでもない。なんの役にも立たないのに、なんでこんな能力持っちまったんだろうっていつも思う。これがなかったら、俺たちは全国に行けたのに」
「全国って……野球の?」
私が聞き返すと、陸くんはああ、と頷いた。
「ギフトのことを野球部の監督に報告したら、ピッチャーがギフトなのはまずいって。
ギフトの人は公平性を保つために一般人と同じ競技に出られないだろ? 一度は勝った地方大会の決勝戦が俺抜きでやり直しになって、結果、負けた俺たちは全国に行けなくなった」
私は言葉をなくした。
本当なら全国大会という大舞台で活躍できたはずなのに、突然現れた能力のせいで目標を絶たれた苦しみはどれほどだろう。
彼は高校で野球部に入らなかったんじゃない。
入れなかったんだ。
「俺だってそれなりに頑張ったんだ。毎日残って練習してたし、プロ選手の投球フォームも研究したりして……でもそうやって身に着けたピッチャーの腕が、ギフトの力を全く借りなかったかって言われると正直自信がない。ときどき、力を入れなくてもふわっとボールが離れる感覚があったし」
彼の告白に私は相槌すら打てなかった。
「そのせいで野球ができなくなるなら、こんな能力、なくてよかった」
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