第11話
その後、うちのクラスは準決勝で敗れて終わった。
ヤスくんは悔しがっていたけど、チームのほとんどを野球経験者で固めたクラスには勝てなかった。
放課後、私とマコちゃんは慰労会と称して大通りのファミレスでパフェを食べた。
話題は今日の陸くんの活躍について持ち切りで、盛り上がった私たちはケーキまで注文し、お腹いっぱいになったところで店を出た。
マコちゃんはそのままパート帰りのお母さんと合流すると言ってスーパーに流れ、私は駅に向かうために川沿いを歩いているときだった。
ここの河川敷は広くて、遊歩道の他に小さな公園が整備されている。
犬の散歩をする人や、子供たちがサッカーをしていたり、どこかのお母さんが小さい子を遊ばせたりしている。
その川に架かる橋の、土手に面した橋脚に野球ボールを当てて、ひとりでキャッチボールの練習をしている男の子がいた。
よく見るとうちの高校の制服を着ている。
知っている人だろうかと立ち止まってよく見ると……なんとそれは、陸くんだった。
今日の球技大会で陸くんはよく使い込んだ自分のグローブを持ってきていた。
こうして放課後に練習するくらい、彼はやっぱり野球が好きなんだろうな、と思った。
なのに、どうして高校では野球部に入らなかったんだろう。
野球が強い中学にいて、あんな豪速球が投げられるなら、甲子園にだって行けたかもしれないのに。
「あ」
ほんの少し、陸くんのコントロールが狂った。
投げた球は陸くんに返らず、川の方へ投げ出される。
陸くんは走って手を伸ばすが届かない。
落ちる、と思った瞬間だ。
「戻れ」
陸くんははっきりと唱えた。
すると、川に落ちるはずだったボールは不自然なカーブを描いて、ぽすんと陸くんのグローブに収まった。
私は目を疑った。
状況が飲み込めない。
いま、陸くんが使ったのはギフトの能力だ。
物を浮かせる力。
「浮遊」の一種だ。
でも、陸くんがギフトを使えるなんてきっと学校の誰も知らない。
毎月の病院の検査に行っているところも聞いたことがない。
彼はたぶん、自分がギフトの能力者であることを隠している。
陸くんは誰かに見られていないか辺りをきょろきょろと見渡し、土手の上にいる私にようやく気が付いた。
「……」
「…………ドウモ」
目が合って気まずくなった私は、無言で佇む彼にちょこんと頭を下げた。
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