第8話

ボールを持った陸くんはピッチャーマウンドに立って調子を整える。

足でざりざりと土を払い、グローブの中のボールの感触を確かめる。


ホームベースの後ろで構えるキャッチャーのヤスくんは、ミットを開閉しながらいつでも来い、と言わんばかりに笑みさえ浮かべている。

恐怖心なんて微塵もないみたいだ。


「……」


2人の間を小さな木枯らしが抜けていく。

私とマコちゃんは息を詰めて見守った。

ゆるい球技大会には似つかわしくなく、ピリピリとした緊張感が漂っている。


陸くんはふう、と短く息を吐く。

顔を上げてミットを見る。

視線は逸らさず、そのまま左足をぐっと上げて、右腕をおおきく振りかぶって――


――ズパァンッ!!


目で追いきれないスピードで、ヤスくんのミットのど真ん中に豪速球が当たった。


「すっ……」


「すっげー!!」


私たちが感嘆の声を漏らす前に、ヤスくんが感動の叫び声を上げた。


「すげーぞ陸! まだ手がビリビリしてる!」


ヤスくんは興奮気味に戻ってきた陸くんに訴えた。


「俺、こんな球捕ったことねえよ! なあ陸、やっぱりピッチャー――」


「やらない。……行くぞ」


陸くんは私を向いた。


「えっ?」


「教えてほしいんだろ」


陸くんは振り返らずにすたすたと行ってしまう。

私が彼の背中とマコちゃんを見比べると、マコちゃんが無言でガッツポーズを送ってきたので、私はぎこちなく頷いて彼を追った。

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