第5話
帰りのホームルームで進路調査票を渡された。
「期限は今週中だからな。そろそろ志望校、絞っとけよ」
担任の
2学期が始まって、3年生の私たちは受験の色がよりいっそう濃くなった。
夏休み中に塾の夏期講習を受けた人も多いみたいだし、私もオープンキャンパスを何か所か回ってみた。
だけど正直、どこもピンとこなかった。
模試は近場の適当な大学を書いて、B判定かC判定をもらっている。
宮っちからは、もう少し真剣になれ、と心配そうな顔をされた。
やればできるんだから、という励まし付きで。
他にも連絡事項をいくつか聞いて、ホームルームは終わりになった。
教室がざわざわと騒がしくなる。
私のすぐ前の席に座っているマコちゃんはすぐさまくるりと振り返り、
「これ、どうする?」
と進路調査票を手にして私に尋ねた。
「晴ちゃんはやっぱりギフトを学ぶ大学に行くの?」
私はうーん、と唸った。
「分かんない。研究機関となると偏差値も高いし。私、特別成績いいわけじゃないしなあ……マコちゃんは?」
「文系かな。本読むの好きだし、近場の文学部がいいかなって」
「そっか、もう決まってるんだね」
成績次第だけどね、とマコちゃんは苦笑いした。
「
マコちゃんは隣で帰り支度をしていた陸くんに話を振った。
「陸くんは成績いいし、難関狙えるんじゃない?」
陸くんは3年生になって初めてクラスが一緒になった男の子だ。
頭が良くて質実剛健、硬派なのがかっこいい。
中学までは野球部でピッチャーをしていたって聞いた。
高校では部活に入らずに、というか、そもそも人と話してるところをほとんど見たことがない。
無表情だし無口だし、一見怖いけれど、でもそこがいいんだって、密かに女子に人気があるのを知っている。
……実は私もその一人だったりして。
鞄に筆記用具をしまっていた陸くんは、ちらりと私たちを見やるとまたすぐ手元に視線を戻した。
「俺は行けそうなところに行く」
「わ、それってやっぱり上を目指すってコト!? 晴ちゃん、私たちも負けてられないね」
「う、うん」
マコちゃんは嬉しそうにはやし立てた。
マコちゃんは私の気持ちを知っている。
仲良くなれるようにって、お節介にもこうしてときどき間に入って取り持ってくれる。
功を奏したことは、まだ一度もないけれど。
陸くんはふと動きを止めた。
しまった。
もしかして怒らせた?
「強いて言うなら」
陸くんはそこで区切った。
「できるだけ知り合いがいないところに行くつもり」
私たちを一瞥して、彼は教室を出ていった。
マコちゃんと顔を見合わせる。
知り合いがいないところ。
それってつまり、彼は私たちの誰とも関わりたくない、ってことだ。
クールだな、とは思っていたけど、ここまで拒絶されると本当に誰とも関わる気がないんだな、と思えてしまう。
「なんか、陸くんって閉じてるよね」
マコちゃんがそう言ったので、私はうん、と答えた。
陸くんは自分を開かない代わりに、他人のことも詮索しない。
ある意味楽だし、人に興味がないのかなとも思ったけど、それなら野球でピッチャーなんかできないはずだ。
バッテリーって確か、夫婦みたいなものって言うんじゃなかったっけ。
「ま、私は晴ちゃんの味方だから」
マコちゃんは真面目な顔で私の肩をポンと叩いた。
ご丁寧に反対側の親指をぐっと上に立てている。
「それってフラグだし!」
私が叫ぶとマコちゃんは笑って頑張りなよ、と言った。
うなだれながら鞄を肩にかけて2人で教室を出る。
とりあえず今は、自分の進路を決めるほうが先だな、と心に決めた。
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