第464話
さっきの店員だと分かったのは言った内容だ。
それがなかったら全く分からなかったと思う。
長い髪が短くなり、バッチリお化粧をしていた顔がすっぴん?になってしまっては………………
誰?ってなるよね。
さて、この店員は客に声を掛けている。
普通はダメなんじゃないかな?
「あっ!これじゃ分からないか!カフェの店員なんだけど、さっきお話ししたよね?肌が綺麗だなって」
「どのようなご用件でしょうか?」
なぜ声を掛けたんだ?
それなりの理由があるよね?
「あ〜、こんなこと聞くのもおかしいけどさ。俺、美容に関することに興味があって。色々お勉強中なんだよね。でさ?君の美容の秘訣を教えて欲しいの。何かやってる?」
「特別なことはしてません。普通に過ごしてます」
「みんなそう言うよねぇ。特別なことはしてないって。絶対何かやってるよ。自分じゃ気づいてないだけだって」
近い。
距離が凄く近い。
後ろに下がってもコイツはジリジリと前に進んで来る。
「ちょっ、あんた距離感おかしいから!ズカズカ寄って来ないでよ!」
私が声を上げる前に大塚さんが言ってくれた。
頭で考えてしまう癖、こういうときは危ないな。
「あっ、ごめん!でも、本当に白くて綺麗だなって。うち、女性客が多いから綺麗なお客さんも来てくれるんだけど。その中で断トツ!自分でも色々調べてるけど、限界があるっていうか。お客さんから聞く話も重要なんだよね。口コミって大事だ。うんうん」
この人、凄く馴れ馴れしい。
後ろに下がれば一歩前に来る、後ろに下がれば一歩前に来る。
蹴り倒したい気分になる。
だが、一般人に一発入れるわけにはいかない。
転んで頭を打って死んでしまうかもしれないし。
この人が受け身を取れるわけがないし。
頭の中で色々考えていると背後に冷たくて硬い感触を感じた。
どうやらコンクリートの壁に当たってしまったらしい。
これでは後ろに逃げることはできない。
「ちょっ、椎名さんに触るの禁止!つーか、あんた本当になんなの!?」
手が私に伸びてくるのが分かる。
あっ、これって正当防衛していいやつだよね?
そう思って右手を上げたがそれは宙に浮いたままになった。
「ちょいちょい、青年。なぁにやってるん?うちのおひーさん達に怖いことしなーでな。警察ごとにしたいんかぁ?」
ギリギリと彼の手首を掴んでいるのは今にもブチ切れそうな海だった。
あっ、これは相当頭にきてるぞ。
「痛いッ!痛いってッ!」
「男の力は女より強いんよ?なのに、こんな端っこまで追いやって………………何しようとしてたん?ん?お兄さん、怒らんから言ってみろ」
いや、もう怒ってるよね。
顔はニコニコだが威圧感がヤバいよ。
「海、落ち着きなさい。彼の腕を折るつもり?それはやめなさい。折るほどでもないでしょう?私たちは何もされてないから」
「は〜ぁ、嬢ちゃんは優しいなぁ。でもな?よーお覚えておくんよ。自分悪くないって思ってる奴はタチが悪いってこと。分かったっちゃ?」
海はそう言ってから手を離してくれた。
「手首が真っ赤になっちゃう。アザになったらどうしよう。明日も仕事なのに!店長に怒られちゃうじゃん!」
………………。
いや、そうじゃないでしょ?
海から大きなため息が出た。
うん、言いたいこと分かるよ。
分かるんだけどさ。
「嬢ちゃんたち、帰るよ。遅くなったら心配しちゃうやろ?」
海は私と大塚さんの手を掴みその場を離れた。
後ろで「待って」と聞こえたが完全に無視をした。
近くに停められていた車に乗せられ、すぐに車を走らせる。
「嬢ちゃん、躊躇うのはダメっちゃっ!ああいう時は体術使ってくれんと困るんよッ!俺が間に合わなかったらどうしてたん!?優しい嬢ちゃんもいいが、優しさだけじゃダメなときもあるん。表だからって安心してちゃダメっちゃッ!」
凄く怒ってる。
走らせた途端に叱るなんて。
「ごめんなさい」
「手ぇ伸ばしてたんけど、あれだと間に合ってなかったん。もう俺の心臓バクバクよ」
はい、その通りです。
私の手はきっと私に触れてから届いてだろう。
その前に止めなきゃいけないのに。
大塚さんにも申し訳ないことをしちゃったなぁ。
私、何も言わなかったから。
反省しなければならない。
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