第461話

海の右手には大きな紙袋が握られていた。


その中に入っているのだろう。



「休みの課題もたくさん出るって聞いたんよ。そうなん?」



「そうらしい。どのくらいなのかはまだ分からないけど。先輩たちの話だから、直接先生から聞いたわけじゃないし」



夏休みより短い休みなのにね。


そんなにたくさん出ても困る。



「クリスマスは一緒に過ごすって聞いたけど。こっち?それともあっち?」



「こっちだっちゃ。クリスマスはお店でなーないけん。嬢ちゃんは入ってなかったなぁ」



「うん。おやすみ」



「希も手伝うって言ってん」



「あら、それは初耳」



なら私も出たほうがいいかな?



「私も出ようか?」



「いいや、嬢ちゃんは休みでええよ。ゆっくりしなーで。クリスマスだし」



「………………」



私よりあなた達じゃない?


クリスマスで大イベントでしょ?


大塚さん、クリスマスイベント特集見てたよ。


恋人と一緒に行きたい観光地ランキングって書いてあったよ。



「お店に出たら過ごせないのでは?」



「日中だけなんよ。だから夜は一緒に過ごす」



あぁ、そういうこと。


なら、夜は光さんが頑張るのかな。



「夜は光さんだけ?」



「夜は予約した1組だけらしい。だから人がいらんって」



1組だけ?


それも聞いも初耳だ。


まぁ、1組だけなら確かに光さんだけで大丈夫だろう。



「嬢ちゃんのクリスマスはなん?」



私のクリスマス?


特別なことはしないけど。



「特大ケーキを作る」



「学校で洋菓子作って、家でも作るんかぁ?」



引いた目で見ないでよ。


私から提案したわけじゃないし。



「悪い?クリスマスだからって特別なことはしない………………いや?ちょっと待って。季節の行事ってお父さんとお母さんから提案されてるような………………」



部屋の飾り付けだってお母さんが率先してやってるかもしれない。


クリスマスツリーとかも、物入れから意気揚々で出してたなぁ。



「あ〜、そりゃ………………そうなるっちゃねぇ。嬢ちゃん、あっちにいたときクリスマスなんてやってん?」



「やるわけないでしょ。季節の行事なんて関わりないもの」



「そーだっちゃよね。んだから、嬢ちゃんの親御さんはやるんよ。そういう行事にも参加させんとねぇ」



「海は?」



「………………希がご丁寧のやっとる」



どうやら同じ状況らしい。


私も海も表のイベントなんて関わりなかったから。



「私、帰るから」



「呼び止めて悪かったなぁ。きーつけて帰りなねぇ」



メンチカツ冷めたな。


海と別れ真っ直ぐ家に帰ると、クリスマスツリーがピカピカと輝いていた。


去年より飾りが増えた?



「おかえり〜」



「ただいま。冷めたから温めて食べなくちゃ」



「ありがとう。早速食べましょう」



お弁当を袋から出してレンジの中に入れる。



「さっき海に会ったの。クリスマスの日、日中だけお店に出るらしくてね。夜は予約が1組だけらしい」



「飲食店は大変だよね。休めないから」



確かにそうだけど。


特別な日だから1組だけにしたのかな?


お弁当を食べた後はケイと遊ぼうとしたが気分ではないらしい。


やっぱ寒いのか。


ふわふわタオルが入ったカゴの中で寛いでいる。


おもちゃを目の前に出しても反応してくれない。


運動させないと太るのに。


ケイの気分が上がらないならしょうがない。


お風呂に入ろ。


お風呂に入った後はモコモコパジャマに着替えてソファーに座る。


テレビをつけてるとクリスマス関連一色だ。



「ただいま〜、うわっ!なんかギラギラしてる。去年より酷くない?」



「おかえりなさい。ムフフ、今年も可愛い飾りが出たからね。買いました。そして、飾り付けしました」



お父さんは寒かったのかストーブの前に座り手を温める。


そして、グルッと部屋の中を見る。



「壁やら窓やら凄いね。目がチカチカするよ。凛はなんともないの?」



目が?


特になんともない。


クリスマスだから気合いの入れ方が違うなぁって。



「誠也!あなたの料理もよろしくね!」



「分かってるよ。ちゃんと買い出しするから。それまで冷蔵庫パンパンにしないでね」



「大丈夫。空だから」



「何も入れるなって言ってないからねぇ。明日の朝ごはんは?」



「………………」



「パン買ってきたからそれ食べようか」



なるほど。


冷蔵庫の中を整理したのか。


クリスマスに備えて。

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