第459話
奏多はむにゃむにゃと気持ちよさそうに眠っている大塚さんを横目に腕をフルフル振っている。
こんなことで重いと?
筋力がないの?
側近がこんなことで大丈夫なのか?
「いやぁ、表を吸収ねぇ。家族を切れって普通に言うから凄い」
「家族を切れとは言ってない。早いけど隠居してもらおうってことよ」
「同じことでしょ。壱夜さん、マジでイライラしててさぁ。忙しいのに食事に誘われたり会議に出席しろって言われてり。海外に行って話し合いしたり喜一の元部下の処理とか色々溜まっているのにさ。進まないわけだよ。君のところはいいよねぇ。表も裏も一緒じゃん。経営者が一緒だといいよねぇ。ホント自由度高い。こっちは昔からあるから堅苦しい」
愚痴を言いたくてしょうがないのか?
だが、柚月の裏はしょうがない。
私のお父さんは自分で設立したし、表の会社のためという理由ではない。
家族を守るために設立したのだ。
会社を守るためではない。
「海なら家族と会わないようにすると思うけど。あなた、効率が悪いんじゃない?」
「痛いこと言わないでくれるかな?分かってるよ。ねぇ?ちょっと貸してくれない?」
「海を?何馬鹿なこと言ってるの?それ意味ないでしょ?あなたが頑張ってくれないと柚月の負担が多くなるでしょ?」」
というか風間は?
「これでも頑張っているんですけどね」
「家族の食事にあなたは出席するの?」
「する。一緒に食べないけど。主の近くにいないとダメでしょ?」
確かにそうだけど、同席を認められているなら会話を聞いているはずだ。
「何を言われているの?」
「裏の資金がいくらあるのか。利益とか」
完全に経営関連だ。
裏の資金を聞いてくるなら、もう確定だろうな。
「あの家族は酷すぎる。いや、裏を持っている家だから普通なのかもしれないけど。息子を喜一に任せた時点で終わってる。大怪我したのに見舞いにも来ないし。知らせてあげたのに、裏の経営は大丈夫なのか?って聞いてきたからさ」
当たり前の反応だろう。
息子は2人いるが、1人みたいなもんだ。
表で活動しているのは長男だけだし。
「道具のようなものだから」
「怖いこと言うね」
奏多は愚痴を言いたいだけ言って出て行った。
さて、お風呂に入って寝るか………………
………………。
大塚さんのスマホは大丈夫だろうか?
海からの連絡は………………
いや、考えないでおこう。
〜 柚月・奏多 〜
奏多は2人を送り届けた後、車に戻りすぐ発進させた。
「遅かったねぇ。何か話をしてた?あの子に余計なこと言った?」
凛と話をしていたときは機嫌が良かったのに、今はテンション下がっている。
それを察知した奏多は若干冷や汗を流している。
「あ〜、世間話を少ししました」
「世間話ね。俺の家族の話を?」
「響いてないみたいでした」
「だろうね。裏を知っているなら尚更だ。引っ越し急ごうかな。煩わしいから」
「本当に一度離れるんですか?離れたらあっちはグズグズになりますけど」
「それでいい。影響力を落とす必要がある」
「ボロボロの会社を引き取るので?」
「ボロボロになるまでそのままにするつもりないよ」
「言われてやる気になったので?」
奏多は先ほどの会話を思い出していた。
凛の言葉は影響力がある。
そして、それを別で考えるのが柚月だ。
表側を潰してしまっても別にいい。
家族との縁も薄いし、縁切りをしても悲しみもない。
親子として接していた時間はほんの少しだけだ。
遠い親戚みたいなものと言ってもいい。
「表との繋がりがあると使えるでしょ?檜佐木君には悪いけど」
「共有するつもりないですよね?」
奏多のその言葉にニコリと微笑む。
それはどっちの意味の微笑みなのか奏多にはまだ理解できなかった。
ただ、良い笑みではないのは確かだ。
〜 柚月・奏多 end 〜
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