第458話
柚月は私の腰から手を離し、顔を覗き込む。
柚月の目は何かを探るような目だった。
これは「本気か?」と言ってる。
ふざけて言ってるわけではない。
裏に手出しされるなら、考えなければならない。
「俺に表の経営をしろって?」
「別に表に出ろってわけじゃない。表に出れるなら出てもいいけど。あなた、お父さんたちみたいにできる?」
「出来るわけないでしょ。仕事内容も違うし」
「なら人を使えばいい。得意でしょ?人を使うの」
経営を任せられる人を使えば表も支配できる。
簡単なことではないができないわけではない。
「………………」
あれ?
なんか考えてる?
もしかして本気で考えてる?
「俺の考えと椎名さんの考えは別かもしれないけど。表か………………すぐには無理だけど、俺が表側に出ないならできる」
「考えが違う?」
「表を持つなら何かと表との繋がりができるでしょ?東賀さんとは少し違うけど。利用価値があるように作り変えればいい」
「えっ?今あるものをそのまま受け継ぐわけじゃないの?」
「今あるもの全部を捨てるわけじゃないけどいらない物もある。いらないビルとかいらないホテルとか」
「表のこと知らないんじゃないの?」
「………………」
あっ、本当は知っているんだ。
今度は私がジーと見る。
柚月は目を逸らし私と視線を合わせない。
別に柚月家の仕事に興味があるわけではないけど。
「奏多、お前表側の仕事してみる?」
「え”っ!?表側!?」
話し掛けられると思ってなかったのか奏多はびっくりした反応をする。
というか、嫌だって反応じゃないか?
「いや、あの、それは無理なんじゃないですかねぇ。海さんならもしかしたらできたかもしれないですけど。俺にはちょっと荷が重いですって。経営できる頭ないですし」
「俺の指示と経営コンサルタントもいるよ」
「無理です。あと、これ以上仕事したくないです」
あっ、そっちが本音だな。
表と裏を同時にやっていたら体が保たないだろう。
「今することはうるさい表をどうするか、だ」
「どうせ奪うなら下準備だけしたらいいんじゃないですか?」
「それをやる時間もないでしょ?」
「………………そうでした」
「このままってわけにもいかないし」
「困りましたね。表側の処理って大変ですねぇ」
今は裏のことでいっぱいか。
「やっぱ、一度離れるか。場所ごと」
一番簡単な方法を選ぶのね。
まぁ、資金面のこともあるだろうし。
私が言ったことは今すぐに実行できるものではない。
「場所ごと?えっ?引っ越しですか!?え〜、引っ越すの大変なんですけどぉ」
「今の家も知られているからね。拠点先も」
「は〜ぁ、探すの大変なんですけど」
「あっ、椎名さんには教えるからね。俺の家。いつでも来られるように。寂しくなったらおいで」
いや、気軽に行っちゃいけない家でしょ。
「あなたの家は気軽に行けない」
「そうなるよね。でも、来られるようになるよ。というかする。今の家は無理だけど、新しいところはそうするから。ねっ?来てね」
拒否権がない。
来いと言われたら行くと答えるしかない。
ホテルの近くに着いたので大塚さんを揺すり起こそうとしたが全く起きない。
完全に熟睡しているらしい。
えっ?
これ私が抱えて運ぶの?
それはちょっと………………
荷物がないけど重い………………
失礼なこと考えてしまったけど。
「奏多。ホテルの前に車を着けて。ここから運ぶのはキツイでしょ?色々と。みんなに見られながら運ぶのはちょっとね」
「えっ?運ぶんですか?誰が?」
「奏多だよ」
「いや、壱夜さんから離れるわけにはいかないんですけど」
「呼べはいいだろ」
「………………」
「お前の都合は知らない」
「分かりましたよ!運びますよ!」
そうしてホテルの前に車を着けて奏多が大塚さんを抱えて運んでくれた。
ジロジロと見られているが、この状況ならしょうがない。
私だって見てしまう。
部屋の中まで運んでもらいベッドに寝かせてもらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます