第457話

ジュンさんの考えはいつも先の先まで見ているらしく、どこで何をしたらいいのか全て計画を立てているらしい。


その計画が無駄にならないように軌道修正までする。


広い視野がないと出来ないことだ。



「椎名さんの現状は見れば分かる。でも、俺の現状は聞かなかきゃ分からない」



「私の現状?見てるの?」



「監視はあるよ。それ、東賀さんも許してることだと思う。気づいてなかったでしょ?」



そんな気配全くなかった。


いや、気配が分かる程度では意味がないか。



「奏多の様子がおかしかったのはソレだよ。ちょっと揉めたみたい」



揉めた?



「それは問題あるのでは?」



「別にあのくらい気にしないよ」



何をして揉めたのだろうか?



「東賀さんも拒否できなかったってことだよ。檜佐木君のこともあるし。情報を得られるならってことで合意した。椎名さんのことはいつでも見られるからいいとして、俺には監視を付けるわけにはいかないからね」



あぁ、勘が鋭い人なら気づいてしまうってことか。


私のことを監視しているなら、いつ柚月と会ったのか分かるのでは?


その時の様子も確認………………


あっ、そうか。


だから、奏多と揉めたのか。



「指示したわけじゃないよね?見つけたら離れるように言えって」



「言ってない。奏多の独断。でも、椎名さんと会った瞬間グサグサ感じる視線がウザかったなぁ」



「途中から気配を感じなくなったってこと?」



「まぁ、うん。苛立ちは感じていたけど。それも無くなった。椎名さんは泊まっている場所に先回りしてると思うよ」



私と柚月が会ってしまうと監視ができなくなるのか。


だからジュンさんは色々聞きたくなるのだろう。



「ふ〜ぅ、久しぶりに賑やかな場所を歩いたから疲れたな」



疲れた?


いつも危険なことしてるのに?


そこより大分マシだと思うのに?



「椎名さん。眉間に皺が寄ってる」



私の眉間の皺をグイッと伸ばしてくる。


そして、私の腰に腕を回し引き寄せる。



「偶には表の空気を吸ったほうがいいと思うけど」



「だからこうして椎名さんと接しているでしょ?忘れないようにしないとね」



「私と接しているだけではダメなのでは?」



「用事もないのに外に出ないよ。それに、頻繁に出歩いていたら部下が騒ぐ」



それは確かにそうだけど。


警護する人たちからすると迷惑だ。



「ねぇ?」



「何?」



「然りげ無く撫でないでくれる?」



「引き寄せるのはいいんだ?」



「………………まぁ、うん」



「もう少し仕事が落ち着いたら会える回数も増えるんだけどなぁ。減るより増えるし」



「数ヶ月で落ち着くわけないでしょ。年単位でしょ?」



「そうだね。表側うるさいんだよねぇ」



表側っていうか、家族が?


というか、喜一が亡くなって影響はあったはずだ。


柚月はなんて説明したんだ?


裏側の経営は柚月が握っているし………………


だよね?



「喜一が亡くなって、表側が意見するようになったの?自分の息子が裏側を経営するなら口出し可能よね?」



喜一がまだ生きていて柚月が継いだのなら口出しはしないはずだ。



「経営に口出すってわけじゃないけどね。あの人たちは裏について知らないから。喜一はしっかり線引きしてた」



なるほど。


獅堂家と同じだな。



「お呼び出しをされるってわけ?」



「くだらない話をしている場合じゃないのに。少し黙らせないとなぁ。あまりうるさいと切り捨ててもいい」



穏やかな話じゃないわね。


実の親を切り捨てるなんて。


まぁ、柚月にとって関係性が薄いのかもしれない。


子供の時に裏社会に放り込めば親子関係なんて薄くなるだろう。


親の言うとおりにしろ、と言われてもなぜ言う通りにしなければならないのか?となる。


今まであまり接していなかったなら尚更だろう。



「不利益にならないってこと?」



「ならない。表の利益なんてこっちにはあまり関係ないから。反対にあっちが困ると思う」



「裏は表を支えるものでしょう?獅堂家もそうだった」



「支える価値がないのなら捨てるよ。経営を引き継ぐのは俺じゃなくて兄だからね。表側の利益をどうするか考えるのは俺じゃない。兄がやるべきことだろう?」



………………思っていけないことだけど。


あり得ないことではない。


ただ、それをやると色々負担が大きくなるし、柚月にできるか分からない。



「捨てるのはやめて吸収したら?」



私の発言はきっと簡単なことではない。


それは表側まで支配することだから。

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