第456話

カニ尽くしを食べまくること2時間。


一年分のカニを食べたかもしれない。


お店から出ると外は暗くなっており、お酒を楽しむ時間の頃合いだ。


奏多は両手に荷物を持ってそのまま車に向かう。


この辺は駐車場代高そうだなぁ。



「あなた達、私たちを送ったあとは帰るの?」



「家には帰らないよ。帰るのはまだ先かな」



「ホテル暮らし?」



「シャワー浴びるくらいだけど」



それはホテルの予約しなくていいのでは?


どっかの銭湯に行ったほうがいいと思うけど。



「ホテル代がもったいない」



「そんなことは考えないよ」



「でしょうね」



車に到着するとトランクに荷物を入れて運転席に奏多が乗る。


3人後ろに乗るのは少々狭いが、助手席に座る選択肢はない。


柚月が助手席に座ることもないし。


やはり3人仲良く後部座席に座るしかないのだ。


大塚さんは座り心地がいいシートに満足らしい。


まぁ、確かにとてもいい。


家の車と違って高級車だし。


海が乗っている車よりかなりランク上だし。



「乗り心地最高。クッションがいいのかな?」



「高級車だからね。うちが所有している車よりずっといいよ」



「へ〜ぇ、持ってないの?」



「持っていないというか、ここまでのランクは持ってないってこと」



防弾車とか。


激しい銃撃戦になんてならないし。


仕事だとそれなりの車を使っているらしいけど、仕事じゃない日はファミリーカーとか軽自動車を運転している。


うん、いらないよねぇ。



「車は走ればいいよ。あとは運転手のスキルだと思う」



加速の仕方やブレーキの掛け方で変わるものだ。


あれ?


大塚さんの声が聞こえない?


隣を見ると寝ているのに気づいた。


えっ?


寝ちゃったの?



「寝ちゃったみたいだね。歩き疲れたのかな?それともお腹がいっぱいで眠くなった?」



「どっちもだと思う。たくさん歩いてたくさん食べて、最後に乗り心地がいい車にトドメを刺された感じ」



着いたら起こそう。


大塚さんを抱えながら部屋に行くのはキツイ。



「なんだか凄いなぁ。最初の頃と本当に違う。覚悟ができたから?それとも質が変わった?その子も素質者って凄いなぁ。よく見つけるもんだ」



奏多の言っていることは分かるが、見つけているわけではない。


そこはしっかり分かって欲しい。



「足の回復早かったね?普通はそんなに早く回復できないと思うけど」



「あっ、うん。処置が良かったから」



「いや、それだけじゃないと思うよ」



骨を折ったわけじゃないから。


早期リハビリが良かったのだろう。



「体質もあると思うけど。まぁ、回復できて良かった」



少しツル感じはあるけどね。



「檜佐木君とは連絡してる?」



「亜紀と?」



そんなに頻繁にはしてない。


時差があるっていうのもあるけど、亜紀は忙しいと思う。



「頻繁にはしてないけど」



「ふ〜ん、あっちで会ったんだけどさ」



「えっ?会ったの?」



あっ、おかしくはないか。


亜紀はジュンさんの下にいるわけだし。



「元気にはしてる。ただ、ゲッソリ」



それは元気にしてないのでは?



「俺と言い合いをする気力もないみたい」



「元気じゃないよね。それ」



「仕事量が尋常じゃないらしいよ。日本と海外じゃ違うからね。しょうがないよ」



やっぱり、仕事の質が違うよね。


あっちの方がハードのはずだ。



「連れて行かれた子にも会ったけど、時間が掛かるだろうね。アレを育てるって面白いことするよ」



ジュンさんが引き取りたいと言っていた子か。



「取引中に何度か椎名さんの話題になったよ。あの子は元気かな?とか。頻繁に会っているのか?とか。頻繁に会えないって伝えたら、笑顔でそうかって言われた。別に嬉しがっているわけじゃない。確認をしたかっただけ」



「確認?」



「檜佐木君を育てるって決めた以上、椎名さんの存在が大きいわけ。そこに、爆弾も一緒にくっついてるもんだよ。檜佐木君が日本から離れたところで、椎名さんの近くにはまだいるのにねぇ。一番厄介な人がさ」



あぁ、私と柚月の進展か。


そんな簡単に進むものでもないのに。


ジュンさんは亜紀のことを考えて言ったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る