第455話

カニしゃぶが届くとカニに夢中になる。


なぜ、カニを食べると会話をやめてしまうのだろう。


会話をしながら食べてもいいのに。


奏多はカニを食べながらタブレットを操作して注文している。


スルスルと動く指で何を注文したのか分からないけど。



「今年最後のカニと思いながら食べないと」



「そこまで思わなくてもいいと思うけど」



冬に食べるかもしれないでしょ?


そこまで覚悟を入れなくても………………



「海がいるじゃん。貯蓄あるから余裕だと思うけど。アイツ、金を使う時間なんてなかったから。家1軒2軒余裕で買えるくらいあるはずだけど」



柚月は海の懐事情をしっかり知っているみたいね。


元雇い主だから?


仕事ばかりしていたからお金は貯まっていくだけだったのだろう。


まぁ、確かに使う時間ないなぁ………………


何かを欲しがるっていう欲求もなかったし。



「いや、なんでもかんでもおねだりはダメでしょ。しかもカニ」



「ん?別に可愛いおねだりはいいんじゃない?誰かを嵌めろって言ってるわけじゃないし」



「おねだりは特別なときに使うものです」



「………………まぁ、どうでもいいや」



会話に飽きるの早いな。



「椎名さんがおねだりをした場合はどうなんですか?」



「………………えっ?」



大塚さんの質問に柚月は私を見て「おねだりする?」と言いたげ。


私が柚月におねだり………………


しないだろうなぁ。



「ちょいちょい、君さぁ。怖いことをバンバン言わないでくれないかなぁ?壱夜さんが困るでしょう」



「困るというか、あり得ないって感じですけど。椎名さんはおねだりするイメージないです。というか、あまりしないのでは?甘え方が不器用!!甘え上手になれって言ってるわけじゃないけど。というか、甘え上手になったらちょっと怖い」



「お友達に向かってなんてこと言ってるのさ。本当に友達なんだよね?」



「うるさい。あなたはイメージできますか?椎名さんが甘えた声でおねだりするんですよ?柚月さんに」



「………………いや、それは………………まぁ、その」



どうやら全くできないらしい。



「おねだりは俺からしてるよ。今だってそうだから。研修先にお邪魔してるでしょ?会いたいなって思ったら家に引き摺り込むよ」



あれ?


なんか、今怖いこと言われなかった?



「はい!NGワードです!サラッとヤバイこと言ってますけど」



「それをあっさり許すから。いや、おかしいって思わなくなる。普通じゃないでしょ?でも、それが普通なんだよ俺たちは」



「………………そこまでして、その先は考えないんですか?私の場合は、一緒に暮らすとかですけど」



「その先か………………椎名さんは考えてる?」



えっ?


そこで私に振るの?


考えてる?って言われても。


柚月と?


………………。


考える。


考える。


考える………………



「よし、まだ死んでないね、とか?」



「………………酷いな。生存確認が先なんだ?」



だって、大事だよね?


私は安全な場所にいるからいいけど。



「一緒に暮らす?一緒に暮らす……………」



「あぁ、ごめん。それ以上は考えなくていいや。明確にしようなんて無理だし。檜佐木君もいることだし。はい、カニ食べて」



お皿にカニを盛る。



「間男みたいな感じに近くなるってことか」



「ちょっ!!お口チャックッ!!そんな風に言っちゃダメでしょ!?理解していないなら黙ってカニを食べてなさい!。ほら、カニ食べ放題みたいなもんだし」



大塚さんの間男発言に焦った奏多がカニを皿に盛る。



「奏多、いいよ。表の人たちにはそう見えるんだよ。言っておくけど、檜佐木君も理解はしてるはずだよ。引き離すわけにはいかないって。対みたいなもんだからね」



間違ったことは言ってないけど。


はい、そうですかって理解できるようなものでもない。


亜紀もそうだ。


理解はしているが、理解したくない。


そんなところだろう。

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