第454話

両手に荷物を持ち、私たちの後ろを歩いている奏多は完全に召使い………………


彼もこうなるはずではなかった、と思っているかもしれないけど。


先ほどの会話に奏多は完全に引いていた。



『分かっていると思いますけど、荷物に変な物とかくっ付けないで下さいね。場所が分かるものとか、話が聞こえるものとかさ。やりそうだからちゃんと言っておかないとさ。まぁ、届いた荷物は確認するけど』



ハッキリと言う彼女は凄い。


そこまで考えているのね。


そして、住所は私の家なのだ。


自分の家じゃなくて私の家を経由して持ち帰るらしい。


持ち帰るのは海だけど。



「たくさん買ったけど、全部配る用?自分のは買ったの?椎名さんはいいとして、君は人のものばかり買ってなかった?」



「買いました。自分のは自分で持ってます」



「そう。自分で持っているんだ………………」



うん、柚月も引いているんだね。


奏多に持たせないで自分で持つ。


まぁ、うん。


いいんじゃないかな。


カニ料理のお店は予約済らしく、お店に到着するなりすぐ個室に通してくれた。


6人ほど座ってもゆとりがあるテーブルが部屋の真ん中に置かれており掘り炬燵式だ。


正座しながら食べるのは疲れるし。


タブレットでメニューを確認する。


うん、やはりどれも高い。



「カニしゃぶは絶対食べたいよね!天ぷらもいいなぁ。カニ寿司もいい」



大塚さんはアレもコレもと見ている。


金額的にどれもバイト代では厳しいものばかりだ。


カニしゃぶだけでも7000円。


カニって怖い。



「椎名さんは何がいい?やっぱ、カニしゃぶは食べたいよねぇ?たらば蟹の唐揚げだって!カニの釜飯もいい!え〜、どれにしようかなぁ」



「まずは定番品にしましょう。食べたい物がありすぎるから、絶対にコレは食べたいと思うものを先に食べとかないと」



「そうだね。余裕があったら他のも食べよう」



これだけいろんなカニ料理があるんだ。


定番のものを先に食べておかないとね。


ここに来た意味がない。


タブレットを使いカニしゃぶを4人前頼む。



「焼きカニも頼んだら?時間のこともあるでしょ?」



柚月はそう言って注文する。



「カニ料理が食べられるなんて、ありがたや〜ありがたや〜」



「大塚さん、カニ好きなんだね」



「そりゃ、気軽に食べられる食材じゃないし」



私の家でも、カニ料理はあまり出ないな。


冬の鍋料理にも出ないし………………


お母さんは高級な食材はあまり買わない。


周りの人たちからよく言われるのは、それなりの物を食べているでしょ?と。


そんなことない。


卵焼きとか目玉焼きとかオムレツとか………………


あれ?卵料理多くない?


焼きそばも食べる。


目玉焼きが乗ってるけど。



「そういえば、壱夜さん家の冷蔵庫にカニ丸々ありましたね。あれ、どうしたんですか?」



「あぁ、あれね。捨てた」



「………………勿体無い。毛蟹でしたよね?」



また、冷蔵庫が高級食材でいっぱいなのか。



「あなたの家の冷蔵庫はいるの?食材が無駄になる」



「俺が買うわけじゃないしから。突然やって来て冷蔵庫に詰める」



「詰めては捨てる詰めては捨てるを繰り返しているのか。食材を無駄にするなんて………………この人に調理してもらったら?」



奏多はブンブンと顔を横に振る。


そんな全力で嫌がらなくてもいいのに。



「なら、この人に食材あげたらいいのでは?部下に振る舞うのもいいと思うけど。労いみたいな。部下の中にはいるんじゃ?料理をする人。全くいないってわけじゃないと思いますけど。白ごはんくらい炊ける人がいるかもしれません」



大塚さんが言ってることは間違いではないが………………



「まぁ、それもいいけど。奏多はいる?」



「いらないですよ。調理器具もないし。無理です」



うん、そうだよね。


料理をする時間もないはずだ。


海がそうだったし。


ご飯を炊ける人はいるかもしれないけど、それだけで済ましてしまうかもしれない。


柚月の冷蔵庫はずっとあのままだろう。

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