第450話

「帽子とメガネとラフな服装。その姿でお忍びをしているつもり?無理だと思うけど」



この男は自覚がないのかもしれない。


紛れようとしているみたいだが、紛れていないのだ。



「お忍びって………………有名人じゃないし」



「ある意味有名人でしょ。周りに誰かいない?大丈夫?」



「いないよ。奏多にも確認してもらったし。大丈夫」



大丈夫、ねぇ………………


で?



「あっ!思い出した!この人、ホテルのところにいた人だッ!」



大塚さんは奏多を指した。


どうやら、誰だったか忘れていたらしい。


怖い思いをしたはずなんだけど。


でも、あの時はあまり顔を見てなかったはずだから。



「ちょっ、大きな声で言わないで。注目されちゃうから」



奏多は人差し指を立てて「シーシー」と言う。


注目されちゃうって誰に?


大丈夫なんでしょ?



「誰に注目されるわけ?大丈夫なんじゃないの?」



「誰にってわけじゃない。周りの方々から注目されちゃうでしょ。って、そんなことよりどこ行くのかな?壱夜さんの奢りですって」



奢りと言われても………………


一緒に行くとは言ってないけど。


一緒に行かないと言っても来るでしょうねぇ。


なら、私たちでは食べられないものをお願いしたほうがいいかな?


いや、その前に大塚さんに確認しなければならない。



「大塚さん、この通り2人も来るらしいけど。どうする?」



「どうすると言われても来るんでしょ?」



「まぁ、うん。来るね」



「だよねぇ。なら行くしかないじゃん」



物分かりがよろしい。


何を食べようか。



「何食べる?定番のから攻める?お腹いっぱいになる前に。柚月の奢りなら高いものから攻めてもいいと思うけど。串カツとか」



「椎名さん、もっと高いのあるじゃん。カニだよ。テレビでよく見るところ!」



あぁ、カニもあったね。


だが、カニを食べるってなると夕食に食べたい。



「今日は夕食まで時間あるから、カニは最後でいいと思うけど」



「なら串カツ」



よし、串カツに決定。


お金を支払ってくれる人の意見を聞かないで串カツ屋さんに向かう。


時間的にまだ早いのだが、お客さんは入っているようだ。


並ぶだけでも時間が掛かるから計画的に行動しないと行きたい場所に行けないかもしれない。


待つこと40分。


カウンターに座りメニューを見る。


ミニトマトを串にしちゃったの?


しゅうまいもある。


へ〜ぇ、いろんなのあるんだ。



「まずは定番のから頼んだら?エビとか豚とかうずらとか。それから珍しいの頼めばいいよ」



柚月が言ってることは確かにそうだって思う。



「あなたは何を頼むの?」



「椎茸」



それは定番なのか?


定番とはどれだ?



「椎名さん!私はカニがいい!カニ3本ね」



「大塚さんはカニ好きなの?」



「好き。あっ、チーズしそ巻もいいなぁ。もう適当に頼んじゃうよ」



大塚さんはメニューを見ながら気になるものを頼んでいく。


それなりの数を頼んでいたけど大丈夫だろうか。



「あのぉ、お嬢さん方。そんなに食うのかな?」



「大丈夫です。ここに男が2人いますから。体を鍛えている人は食べますよ」



「いや、鍛えているからって食べるとは限らないし。ほら、糖質制限とかあるでしょ?」



「えっ?してるのに来たんですか?」



「してない」



「なら食べられますよね」



「………………」



奏多は若干引いているようだ。


これは食べることになりそうだ。


運ばれてきた串カツを見て大塚さんはテンションを上がったのか写真を撮りまくり、それからカニを食べる。


何もつけないで食べるんだね。


私はチーズのしそ巻を一度だけタレにつけて食べる。


あっ、美味しい。


熱いけどこれならたくさん食べられそう。



「椎名さんの友達は圧が出てきたね。いいから食べろって感じで奏多を威圧してくる」



「そう?ここに来たなら食べるしかないでしょ」



「まぁ、そうなんだけど」



「大塚さんは大人になったんだよ」



「それで済ませるんだ」



そう思わないと疲れるから。

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