第449話

海の所為で寝る時間が遅くなったが、なんとか起きて時間通りに出かけることができた。


ショボショボする目をこすりながら電車に乗り大阪天満宮に向かう。



「椎名さんって朝に弱い感じ?」



「いや、そんなことはないと思う」



「そっか。まぁ、高速バスで通ってるもんね。ところで、運転はどうなった?」



「………………そうね。頑張って乗らないと」



「ペーパーになっちゃうね。このままだと」



それだけは避けたい。


車が飾りになってしまう。


目的地に着くと早速お詣りをする。


どうか、今度こそ自分が作ったスイーツが選ばれますように。


自分の努力が認められますように、と。


学問の神さまだから願い事は大体決まっている。


だから、大塚さんも同じことだと思ったら違ったらしい。


『お父さんに海さんが認められますように』と願ったらしい。


その合格は別物じゃないかな?


ここは学問の神様だから縁結びは別のところだと思うけど。


もっと別のことをお願いしないとダメだと思うな。


次の試験だって単位がかかっているのだ。


追試だけは避けたい。


お詣りが終わると商店街をブラブラと歩く。



「何食べる?やっぱたこ焼き?あ〜、でも喉が渇いたから飲み物でもいいかなぁ」



何を悩んでいるの?


全部食べれば問題ない。


だが、最初は飲み物が先だろう。


喉を潤してからたこ焼きやらお好み焼きを食べたい。



「大塚さん、財布の準備はいい?」



「バッチリ」



お父さんがお小遣いを渡そうとしたが、バイト代があるのでいらないと言った。


この為に貯めていたのではないのだろうか?


飲み物を買って飲みながら何を先に食べようかと選んでいると、大塚さんがスマホの画面を見せてきた。



「ここにしよう!あと、ここも。あっ、ここもね」



何かな?と思い見るとたこ焼きとコロッケとスイーツ。


うん、いいね。


ちょうど駅に向かって歩く感じだから帰ることを考えるといいルートだ。



「明日は道頓堀だねぇ。お土産もそこで買う感じ?」



「うん。大塚さんも」



「うん。そこで一気に買う」



たくさん買うなら持って帰るより郵送してしまったほうが楽かもしれないな。


私もお父さんとお母さんに頼まれたから買わないと。


光さんにもお土産を買って………………


あれ?


私もそれなりにあるじゃん。


私も送ってしまったほうがいいのかもしれない。


列に並び買ってモグモグと食べながら歩き、次のお店に着いたらまた並び買ってモグモグ食べる。


歩いていると美味しそうなものばかりで足を止めてしまうのだ。


お昼ご飯がずっと続いている感じだ。


食べて止まって食べて止まっての繰り返し。



「私たちってめっちゃ食ってるよね」



「うん、びっくりだよね。リミッターが外れているのかもしれないね」



旅行気分ってすごい。


旅行ではないが。


ホテルに着くと、先生に帰ったことを報告してから部屋に戻る。


今日はたくさん歩いたから早く寝て休まないと。


明日はもっと歩くはずだし。


そう思っていたのだが、今夜も海から電話がきた。


いや、寝させてくれ。


もうすぐ帰るから、夜に電話してくるな。


そう言いたいが、ここは我慢した。


次の日、予定通り道頓堀に行く。


よくテレビ見る橋に着くと写真を撮ってしまった。


なんかテンションが上がる。



「お土産はあとでいいよね?」



大塚さんの手はスマホを忙しく動かしている。



「うん、重くなるからね。色々見てから買いに行こう」



「なら、串カツ食べに行こうか?」



そうね。


串カツはまだ食べてなかった………………


あれ?


大塚さんの声ってこんな低い声………なわけない。


大塚さんを見るとポカンと口を開けて驚いている。


あぁ、そっかぁ。


私の背後にいるのね。


タイミングって大事だと思うの。


自由時間だとしても課外授業中だからさ。


そんなこと言っても柚月にはどうでもいいのかもしれないけど。


来たばかりなんだけど。


本当に来たばかり………………


見張っていました?って考えちゃうくらいタイミングがいいな。


後ろを振り向くと柚月とその後ろには奏多がいた。


2人とも、帽子を被りラフな服装をしている。


完全にお忍びスタイルだ。

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