第440話

人様の冷蔵庫を遠慮なく漁るお父さんの姿を見ることになるなんて。


あぁ、そのお肉は使っちゃいけないのでは?


高そうな牛肉だよ?


きっと楽しみにしているはずなのに。



「何を作るの?」



「プルコギ。ご飯に合うよ。牛肉あるし」



「細切れじゃないよ」



「牛肉だから大丈夫」



だが、その厚みでプルコギは………………



「ビーフステーキの厚みだと思うけど」



「………………」



あっ、黙った。


これは、あれか?


ステーキを焼くのは面倒とか?


人数も多いし、大量に作るなら一回で終わる料理がいいって考えている顔だ。



「切っちゃうから。薄く」



薄く切るの?


細切れにするの?


お父さんは迷いなく肉を薄くカットしていく。


あぁ、美味しそうな牛肉が………………


本当にこれで良かったのだろうか。


ステーキにしたほうが喜ぶのでは?


あぁ、でも人数を考えると1人4枚くらいしか食べられないかもしれない。



「お店やってるだけあるよね。調味料の数がそれなりにある。うちよりあるよ」



「こんなにあって使い切るのかな?」



「家でも何かしら作っているんじゃないかな?俺は家で作らないから、こんなに調味料ないけど」



「お父さんの仕事場にはこのくらいあるの?」



「あるよ。いろんなの準備しておかないと、色々試すことが出来ないからね。肉料理だけだとバランス悪いから野菜も使わないと………………巻くか。凛、レタスを1枚1枚千切ってくれる?あと、人参も細切りにして」



野菜と一緒に食べればバランスはいいだろ。



「トマトも切って大葉と混ぜちゃおうか。ゴマすってくれる?」



「うん」



お父さんの指示に従って料理を作っていく。


お肉が焼けるいい匂いは食欲が唆る。


あ〜、焼肉屋に行きたいなぁ。


食べ放題でもいいから。



「今度、焼肉屋に行かない?食べたい」



「焼肉屋?いいよ」



「食べ放題のお店ね。アイスクリームとかワッフルとか食べられるところ」



「あぁ、ドリンクバーとかあるところか」



「うん、いろんなの食べられる」



ご飯も色々あるし。


真理亜が一番喜ぶ場所だ。


スイーツの種類も豊富だし。



「そうだねぇ。今度の休みに行こうか。初めて商品になったから、そのお祝いもしたいから」



「お祝い………………」



「そう。お祝い。お客さんが美味しいって言ってくれて、また食べに来たいって言ってくれてた。それだけで次に進める」



お客さんがまた来たいと言ってくれた。


それは、お店にとって凄くいいことだ。



「ご飯は、あと20分くらいかな?う〜ん、他に何か作ろうか。お味噌汁作ってなかったね」



お父さんはゴソゴソと冷蔵庫の中を物色。


そして豆腐とネギを手に取りワークトップの上に置く。



「あとは、何を作ろうかなぁ」



光さん家の冷蔵庫、いい具合にスッキリしそう。


元々、スッキリだったけど。



「お父さん、冷蔵庫の中身スッキリだね」



「そーだねぇ。デザートは何がいいかな?」



うん、なかったことにしてる。



「あっ、ゼリーあった」



「それは食べちゃいけないと思う。高そうだよ」



「う〜ん、洋梨のゼリーだって」



聞いてないね。


あれこれ冷蔵庫の食材を使い、1品2品3品4品とおかずが完成していく。



「いい感じになってきたね。これくらいあれば足りるでしょ?お酒が飲めないのが辛いけど」



「うん」



お酒を飲まれてしまったら帰れなくなってしまう。


それか、お父さんだけここに置いていくしかない。



「ねぇ?何で缶ビール準備してるの?」



「光と海は飲むでしょ。アイツら、気にしないだろうし。疲れた後のビールは美味いって言って飲むよ。海は歩いて帰れる距離だし」



歩いて帰れる………………


アパートにか。


そうなると大塚さんは?


一緒の部屋ってことだよね。


飲んじゃうとなると送れないだろうし。



「大塚さんは海の部屋にお泊まり?」



「そうなんじゃない?こっちに泊まるって聞いてないから。付き合っているんだし、泊まるでしょ」



「さっき、変なこと聞いた。海のことが気になるっていう人がいるんだって。その人を紹介されてたって」



「ふ〜ん」



なんか軽いな。


どうでもいいって感じ。



「大塚さんは平気そうだったけど」



「だろうね。靡くわけないし。さて、みんなを呼んできて。ご飯出来たよって。もう、終わってる頃でしょ」



お父さんも大塚さんと同じらしい。


気になるが呼びに行かなきゃいけない。


冷めないうちに食べて欲しいし。

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