第439話

これは料理を運べとかではないな。


だって作った様子が微塵も感じられないもの。


2人でお茶飲んでゆったりまったりしてるから絶対違うな。


というか、まだ終わってないのに。


このおじさん2人はなんで休んでいるわけ?



「おじさん2人は体力の限界ですか?」



「グッ、凛。そんな悪いこと言っちゃダメ。傷つくでしょ。確かに、年齢はおじさんだけど」



「なんで座ってるの?お茶飲んでるし」



私は、座るのを堪えているのに。


まだお客さんがいるこの状況で休むわけにはいかない。



「見れば分かるだろ。疲れたからだ」



なんだろう。


今、イラッとした。


光さんの全く悪くないという態度に腹立つ。


光さんは仕事でたくさん料理を作ってるはずでしょ?


立ち仕事だし。



「そんなことより、スイーツの件だが。見てたか?」



「忙しくて、見る暇ないですよ」



飲み物の注文が何度もあったのだ。


空になったグラスも片付けないといけないし。



「だよねー。そうだと思ったから見ておいた。美香さんも見てたし。ここで結果を伝えようと思ってね」



評価?


このタイミングでやるの?



「光と話し合って最後のデザートは凛が考えたスイーツにしようってなったんだ。たくさんのお客さんが来て食べてくれるからね。SNSに載せてくれたら宣伝にもなるし。美香さんは写真を撮るだけじゃなくて、スイーツを食べているお客さんの反応も見てもらっていたんだけど結果は高評価だったらしいよ。俺たちも隙間から見ていたけど、反応は良かったと思う。だから、今回のスイーツは合格ってこと。大変よく出来ました。でも、本人が見てないからさ。バイトがある日に見といてね」



先にお父さんたちが確認したことについては怒ってはいない。


でも、最後のデザートを変更することは教えて欲しかった。


あれが出てきた時は、頭の中がハテナマークだらけになった。


でも仕事中だし、光さんは行け行け合図してくるし。


深く考えないようにして仕事をしていたけど。


デザートってメインで頼む人少ないからなぁ。


どうしても定食系がメインになって、お腹いっぱいでデザートまで頼まないって人もいるし。


常連さんも知ってはいたが注文はしたことがなかったらしいし。


光さんはそれもあって今回のコースに組み込んだのだろう。


食べてくれる人がたくさんいるなら反応もそれなりに分かるはずだ。



「合格ってことは定番メニューに採用ってこと?」



「そうなる。これで材料の確保を本格的にしてもいいだろ。って、お前まだ実感ないのか?合格だぞ。自分が考えたもんが継続になるってことだぞ?分かるか?」



光さんは首を傾げながら言った。



「凛は後からジワジワくるタイプだから。今はこんな感じだけどそのうち実感してくるよ。自分で見てないし」



「鈍すぎるだろ。こんな嬉しいことすぐ感じろよ」



「そろそろ終わりかなぁ。みんな頑張ってくれたから、今日の夕ご飯は特別に俺が作ってあげようかなぁ。冷蔵庫にあるもの勝手に使っていい?」



「店のもんは使うな。家の冷蔵庫ならいい」



「分かった。勝手に入っていい?」



「いいわけないだろ」



「だって、家の冷蔵庫ならいいって言ったから」



「………………常識を考えろ」



「は〜ぁ、別に何もしないよ。光にイタズラするの飽きたし。なら、凛を連れて行こうかなぁ。手伝ってくれる?光、家の鍵貸して」



「イタズラか。お前のイタズラは酷い。あれは悪質だぞ。何度ぶっ叩こうと思ったか………………は〜ぁ、凛と一緒にいけ。凛が抜けても大丈夫だろ」



ポイッと投げられたのは鍵だ。


いいのか?


人様の家に入って冷蔵庫を漁るのはいいのか?



「凛、行くよ〜。そろ〜り抜けるよ」



お父さんはゆっくりキッチンから出て裏口に向かう。



「冷蔵庫にあるプリンは食べるなよ。あれは美香のもんだ。食べたら拗ねる」



「分かりました」



私も裏口から出て、光さんの家に向かう。


玄関の前にはお父さんが待っており、鍵を使って中に入る。


お父さんはキッチンに向かっていき冷蔵庫が開けて中身を確認する。



「おっ!凛、見てよ。綺麗に整理整頓されてる。うちの冷蔵庫と違う。やっぱ、こんな風に整理されてると何がどこにあるか分かるよね。詰め込んでないから」



それは、お母さんがたくさん買ってくるから詰め込むしかないのだろう。


きっと、買う量を減らしたらこの冷蔵庫の中身と同じようになるはずだ。


でも、特売日に弱いからなぁ。


買っちゃうんだよね。

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