第438話

厨房からデザートの準備が終わったから運んでくれと言われたので、ワゴンを押しながら取りにいくと見覚えがあるデザートがたくさん並んでいた。


なぜ、デザートが変更されているので?


確か、ゼリーじゃなかった?


なぜ、私が考えたチョコケーキがここにあるのだろうか………………


光さんを見ると早く行けと手を振られる。


嘘を言われたらしい。


………………。


無言でワゴンに乗せてデザートを運ぶ。


こんな状況でゆっくり観察できるわけがないのだが。



「おっ、君も和服姿似合うね。というか、凄く似合う」



「あっ、ありがとうございます」



常連さんに声をかけられ立ち止まってしまった。



「こちらデザートになります」



「ありがとう。あれ?これ、新作?メニューのトップページにオススメ品として出してたよね?」



「そうです」



「へ〜ぇ、結構ボリュームあるんだね。もっと小さいのかと思った」



「層になっているのでいろんな食感を楽しめますよ」



「へ〜ぇ。この店であまり見かけないデザートだから気にはなっていたんだ。食べられて嬉しいよ」



「ありがとうございます。では、次がありますので」



まだ運び終えてないデザートがワゴンに乗っているのだ。


早く運ばないと食感が変わってしまう。


全部運び終えたのを確認してから定位置に戻る。



「お腹空いたねぇ」



隣にいる大塚さんは自分のお腹を押さえながら言った。



「うん、お腹空いたね。料理たくさん見てるから余計にお腹が空く」



「そうなんだよ。いい匂いもするじゃん。焼き鳥が出てきたときやられたって思った」



「ご飯に合うね」



「ねぎま最高」



どんどんお腹が空くなぁ。


早く終わってほしいところだけど。



「ところで海が捕まっているんだけど。なぜ?」



「あぁ、なんか紹介されてるらしいよ」



「えっ?紹介?引き抜きでもされてるの?」



「ある意味引き抜きかな」



あんな男を引き抜こうとしているのか、バカなのか?


裏ではいい仕事をするかもしれないが表ではグダグダだぞ。



「人様のご迷惑にならない?」



「椎名さんが考えている引き抜きではないよ」



えっ?


なら、どんな引き抜き?


………………。



「落ち着いてきた感じか?注文の数が減ったが」



光さんがカウンターにレモンサワーとカシスオレンジを置いた。



「あっ、私持っていきまーす」



大塚さんは素早く動きお酒を両手に持って運ぶ。



「そうですね。落ち着いてきたかもしれません」



「そっか。あと1時間って感じだな。料理より酒がメインだろう」



「1時間………………」



「あと少しだから頑張れ。背を伸ばせ。ピシッと!」



そろそろ足が限界ではある。


いつもより数倍動いているから疲れるのだろう。


スニーカーにすればよかった。



「戻るから、凛も次の酒を運べ」



「分かりました」



光さんが言った通り、料理の注文よりお酒の注文が多くなる。


そしてソフトドリンクの注文も入るようになった。



「カウンターに腰を預けると楽だよ」



大塚さんはもう料理が置かれていないカウンターに寄りかかる。



「ダメ。それをやると動けなくなる」



「真面目だなぁ」



「ねぇ?さっきの引き抜きは何?」



「あぁ、なんか紹介されたらしいんだよね。ここに通っている常連さんの知り合い。その人もここのお店を利用しているらしくて。その人が海さんに好意を寄せているらしい」



それは、結婚相手にどうですか?ってことだよね?


えっ?


なんで大塚さんは他人事のように話してるわけ?


自分の彼氏のことでしょう?


平然とした態度の大塚さんに驚きを隠せない。



「なんで、そんなに落ち着いているの?普通は慌てるものじゃないの?」



「う〜ん、だってねぇ………………海さんだし」



これは………………


余裕だから?


………………。



「り〜ん、ちょっとこっちに来て」



キッチンから私を呼ぶ声が聞こえる。


何か料理の注文でも入ったのか?


そんなこと聞いてなかったけど。


キッチンに入ると丸いスツールに座って寛いでいる光さんとお父さんがいた。

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