第436話

翌日、紙袋から制服を取り出しソファーの上に広げる。


古民家を改築したお店だから和が似合うと思うけど、これは………………


大正時代の和を感じるような制服だな。


大正時代は知らないけど、テレビとかでよく見かける大正ロマンとかの。



「あれ?それどうしたの?」



お母さんがレトロ感がある着物を手に取りながら言った。



「光さんのお店の制服」



「あぁ、あのお店の。凛は似合いそうねぇ。光さんは………………どっかのヤバイ人。確か、和装スタイルだったはず」



「そうなの?お父さんも手伝うらしいの。団体のお客様が入ったらしくて、大量に料理を作らなきゃいけないから」



「誠也は似合うでしょ。あの人は和が似合う。でもねぇ、光さんがねぇ。祭り感が消えない」



ヤバイ人となると海も同じでは?


見た目と雰囲気ならどっちがマシだろうか。



「団体のお客さんが入るなんて珍しい」



「常連さんからの予約。あそこのお店は常連さんが多い」



「看板ないものね。お店なのか怪しいところもあるし」



確かにそうだけど。


常連さんが広めているのだろう。


久々に着付けをすることになりそうだ。


忘れているようないないような………………


制服だから帯も簡単なものだけど、緩くやると解けてしまうし。



「あれ?それ、お店の制服?こんなのだったっけ?うわぁ、レトロだね。凛は着物が似合うから大丈夫だけど。他の人たちは大丈夫なのかな?」



仕事部屋から出てきたお父さんはお母さんと同じ反応をした。



「誠也も手伝うって聞いたけど」



「うん、急遽手伝うことになった。あまりやらないほうがいいけど、光だけじゃ対応できないからって。裏方だし目立つことじゃないから。カウンターは使わないからお客さんがキッチン側を覗くことはないだろうし。仕切るって言ってたから。それならいいかなって」



なるほど。


間仕切りを設置するのか。


それなら見られることはないだろう。



「美香さんも手伝うって。大塚さんも呼ばれたらしいから」



「そうらしいね。配膳に人数が必要だからね。海と凛だけじゃ間に合わないだろうし。スピードが大事だよ」



ワゴンを使えば大量に運べるけど、テーブルに乗せるまで時間がかかる。



「凛の和服姿、可愛いわよねぇ。写真撮らなきゃ。誠也も一緒に撮らせて」



「俺は店で着替えるからね。凛もそうしなよ。それ着て店まで歩くの大変だよ」



「え〜、着てくれないの!?」



「店で撮ってあげるから」



お店で撮ると言われたがお母さんは不服らしい。


でも、ここで着替えてお店に行くのは辛い。


ガツガツ歩けないし。



「いっそのこと麻矢も手伝いに来たら?」



「手伝いに?それは………………遠慮しとく。足手纏いになりそうだから。お客さんと会話を楽しんじゃうかもしれない」



「仕事をしないってことか。それはダメだな」



「言い方酷くない?」



ちょっと酷いけど、仕事を疎かにしてしまうのはダメだ。


お客さんと会話をするのはいいけど、長丁場にさせてはいけない。



「ちゃんと写真撮ってね。誠也と一緒だからね」



「わかったよ。忘れない」



何度も念押しするほどそんなに写真が欲しいのか。


その念押しは本番が来るまで毎日続いた。


当日、お店の後ろにある住居で私と大塚さんは和服に着替えていた。



「椎名さ〜ん。これってこう?」



「逆」



「難しいな。なんか浮く」



「谷間見えるよ」



「………………ムズイ」



ちょっと待って。


自分のが終わったら手伝うから。


それなりに時間が経っているのに、着付けはしっかり覚えているようだ。



「はい、後ろを向いて」



自分のが終わり、大塚さんのを手伝う。



「グエッ」



「あっ、苦しい?でも、緩くやると着崩れするから」



「大丈夫。びっくりしただけ」



そう、ではもう一度。



「グエッ」



………………。


面白がってない?



「あっ、凄い!浮いてない!」



「順番通りにやらないと浮くから」



「ほ〜う。なんか和装もいいね!新鮮!」



今のうちはまだいいよ。


これから大変なのが分かると思うから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る