第435話

朝、起きて自分の顔を洗おうと洗面台の鏡を見たとき、ニキビが酷くなっていることに驚いた。


そのままキッチンにいるお母さんのところに行って見てもらうとすぐ皮膚科の予約を取ってもらった。


酷くなる前に行けばよかったのに治るだろうと安易に考えたのがよろしくなかったらしい。



「触っちゃダメだからね。痒いと思うけど。我慢して」



「うん」



無意識に触っているんだけどなぁ。


今日はどうすることも出来ないからそのまま短大に行くと大塚さんが目を大きく見開いて「この前より酷くなってない?」と言った。


なってます。


1つだけだったニキビが2つ3つと新しくできてしまった。


原因はチョコの食べ過ぎだろう。


美容効果があると言われていても食べる量が凄いとこうなる。



「なんか見てて痛そう」



「痒い」



「綺麗な肌だったのに、ニキビ跡怖いからなぁ。残らないといいけど」



「ここまで酷くなったら無理かもしれない」



「諦めちゃダメでしょ。皮膚科は?」



「明日行く」



まぁ、頑張ったという証拠だろう。


体がボロボロになってまで完成させたんだから。


その日のお昼、今日はお弁当がないから学食で食べる。


だが、大塚さんはお弁当らしい。



「南蛮チキンにしたんだ?タルタルソース最高だよね」



「うん。本日のオススメ品だったよ。大塚さんのは………………見覚えのあるおかず」



あれ?


お弁当交換したっけ?


そのくらい見慣れたおかずだ。



「卵だらけだ。なんで?卵いっぱい買ったの?賞味期限ギリギリ?まさか、私のお母さんと同じことをしたの?」



「そうじゃないよ。卵料理の練習中なの」



………………なるほど。


海が作った料理か。


へ〜ぇ、大塚さんが食べているんだねぇ。



「出来は?」



見た目はよく出来てると思うけど。


問題は味だと思う。


だし巻き卵って難しいよね。


お母さんも苦手って言っていた。



「う〜ん、だし巻きってさ出汁が出るじゃん?それがない」



なるほど。


道のりは長いな。



「フライパンに濡れたタオルを入れて練習してる。光さんに言われたんだって。家でも練習しろって」



「へ〜ぇ」



もっと別なものにすればよかったのに。


和食の定番ではあるけど。



「大塚さんは作れる?」



「無理だね。お店みたいに作れないよ。だし巻き卵専門店のヤツ食べたことあるけど、凄く美味しかった。あれ食べちゃったら無理だよね」



専門店のだし巻き卵は食べたことないなぁ。


お父さんが作るものと違うと思うし。



「椎名さんは?作れる?」



「無理。お店みたいには作れない。海は作ろうとしているんでしょ?」



「そうだね。いつも難しい顔して練習してる。冷蔵庫が卵だらけだった」



でしょうね。



「家には?いつ帰るの?」



「卵地獄から解放されたいから今週中に帰るよ」



あぁ、分かる。


朝、昼、晩ってキツいよね。


好きなんだけど3食はちょっとね。



「そっか。家族は大丈夫なの?」



「寛容だから」



寛容………………


それで片付けられることでもないと思うけど。



「海さんが言ってたけど、お店に予約が入ったらしいよ。聞いてる?」



「予約?」



「貸切予約だって。常連さんが二次会で使うらしい」



「聞いてなかった。バイトの日に言われると思う」



「人数が多いから私も手伝って欲しいって言われたんだ」



そんなに大勢は無理なのでは?



「光さんの奥さんも手伝うって言ってた」



美香さんが?


美香さんはお店に出ないのに、それほど忙しいってことか。


何人来るんだろ。


そして次のバイトの日、光さんから大塚さんが言っていた詳細を聞いた。


人数は20名ほど。


和食と洋食の料理とデザートを希望。


お酒はそれぞれ好きなのを頼むらしい。


お酒好きな人が多いらしく、通常よりメニューを増やすから、事前にメニューの確認をしてと言われた。



「お父さんもお手伝いですか?」



「おう、頼んだ。俺と一緒に調理担当だ」



調理以外に頼めるわけがない。


テレビに出てる人が配膳なんてしていたらびっくりだ。



「めでたい日だから制服を支給する」



「制服?」



制服なんてあったの?


エプロンだけかと思った。


その日、紙袋に入った制服を持って家に帰った。

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