第433話

1回目2回目3回目4回目と試作品を作っては光さんやお父さんに見せては作り直しを何度も行い、12回目になったときお父さんから「商品化してもいい」と言われた。


一口食べた後に突然言われたからびっくりした。


聞き間違えか?と思い、聞き返すと間違ってないと分かった。


その瞬間嬉しくて言葉にならない感情がブワッと溢れたのを覚えている。


だが、お父さんはまだ喜ぶのは早いと言った。


メニューに載せてみて、お客さんの反応を確かめるまでは気が抜けないと言ったのだ。


確かに、お父さんはこれでいいと言ったが食べるのはお客さんたちだ。


メニューに載せる写真用に作ったデザートを持って光さんのお店に行くと光さんが写真を撮るための準備をしているところだった。


料理の写真は自分たちで撮影して加工もしているらしい。


奥のドアから出て来たのは光さんの奥さんの美香さんだ。


何やら本格的なカメラを持っている。


もしかして美香さんが撮るの?



「ちょっと海君。照明はこっちに移動してくれないかな?あと、お店の電気消して。いらない照明は消さないと影になるから」



海は美香さんの指示通りに動く。



「おい、海!お前、延長コードは端っこにしろって言っただろ。美香が足引っ掛けて転んだらどうすんだよ」



光さんはコードを持ち上げて言った。


すると海は急いでコードを移動させる。


なんだか、海は凄く動いているよね。


私はそれをただ見ているだけだ。


何か手伝ったほうがいいかな?と思ったがお父さんが手招きしてカウンター席に座りなさいと言うから座っちゃったんだけど。



「美香さんが撮影するんだね。私、愁さんだと思っていたけど」



「愁に頼んだことあるらしいよ。でも、こだわりが強いらしくて。時間が凄く掛かったらしい。愁は仕事になるとスイッチ入るからね」



「へ〜ぇ。でも、綺麗な写真は撮れるよね?」



「まぁ、そうだけど。こだわりが強いと面倒なんだよ。お店で使う写真で、個展に出す写真じゃないから」



あ〜、なるほど。


作品として撮影したくなるのか。



「よし!準備完了!持ってきて!」



美香さんが撮影BOXの前に仁王立ちする。


なんだか少し怖いな。



「凛、飾り付けだ」



「はい」



クーラーボックスからスイーツを取り出しお皿に乗せる。


そして、ソースやフルーツで飾り付けをすれば完成だ。


完成したものを撮影ボックスに入れると美香さんが向きの微調整して撮影を始めた。



「あ〜、毎回疲れるわぁ。もっと簡単にできん?スマホはダメなん?こんな本格的にやらんでもええと思うんけどなぁ」



海は肩周りをグルグル回す。



「海は分かってないなぁ。写真って凄い影響するんだよ。美味しそうに撮れば、お客さんも食べたいって思うからね。売り上げに繋がる。ほら、美香さんの手元よく見ときなよ。海もそのうちやるんだから」



お父さんはため息混じりで話す。




「………………なんでもやらせるんか?」



「そうだよ。なんでも挑戦してよ」



えーー、と言いそうな顔をしている海だが、そんな海を見てお父さんは目で訴えている。


「早く見に行け」って。


配膳や掃除だけでなく料理を作らされ、料理の写真も撮るようになるとは。


そしてメニュー開発もやらせるのか。


ハードな日々を過ごすことになりそうだ。



「お店を経営するのって大変だね。全部自分で決めないといけないし」



「そうだねぇ。でも、自分がやりたいことが出来るから」



「お父さんはお店を出そうとか考えたことなかったの?」



「考えたことなかったな。凛と出会ったあの喫茶店も凛の近くに居たいからやっていただけだし。海みたいにちゃんとやろうとは考えたことないや」



「お父さんがお店を出したら儲かると思う」



「忙しくなるのは嫌だなぁ。今のままでいいよ。麻矢と凛と少しでも長く一緒に過ごしたいから。仕事ばかりはしていられないよ。まだやりたいことたくさんあるのに」



私も忙しくなってお父さんと会えなくなるのは嫌だ。


お母さんが忙しくて帰って来られなくなった時は寂しかったもの。


それをずっとだとやっぱり嫌だな。



「お店出さないでね」



そう言うとお父さんは優しく頭を撫でてくれた。

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