第431話

今日は学校のお店の当番だ。


午後の当番のためお店の準備はしなくていい。


午前より午後のほうが楽だな。


ショーケースにはいろんなケーキがあるが、その中でも目立っているのがババロアだ。


直径20センチはありそうな大きさだ。


誰が作ったものだろう?


そのババロアはよく売れる。


6個あったのに、残り2個になってしまった。



「このババロア売れますね」



「そうだね。これは、ローテンションで必ずあるから。それが分かっている人が買っていくの。10個作るんだけど毎回完売になるんだよね。もっと置いて欲しいって言われるんだけど、作る場所がないから。これ、大きいじゃん。冷蔵庫いっぱいになっちゃう」



確かにこのサイズを増やすのはちょっと無理がある。


業務用の冷蔵庫だけど、他にも冷やすものがあるし。



「残り2個かぁ。残ったら買おうかなって思っているけど、残らないよねぇ」



「他のケーキは残りそうですけど」



「他のケーキはいらない。ババロアが食べたい」



そうですか。


他のケーキの数はまだそれなりに残っている。


まだ夕方の時間じゃないし、これからだとは思うけど。


そして夕方の時間になると仕事終わりの人たちがケーキを買いにきた。


自分へのご褒美や記念日だから買う人など様々だ。


ババロアは売れ残ることはなく完売となった。


営業時間がのぼりなどを片付ける。



「結婚記念日にここのケーキ買いに来てたよね。特別な日なのにここでいいのかな?チョコプレートに書くとき手が震えちゃったよ。学生が作ったケーキでいいのか?って」



先輩はレジ締めをしながら話す。


確かに大事な日なのにここのケーキでいいのか?とは思うけど。


他でホールケーキを買うより安いからだろう。



「ババロア、ダメだったなぁ。毎回ダメなんだよねぇ」



買うんじゃなくて作ればいいのでは?


レシピは公開されているから作れるはずだ。


それを作って、私が考えました!とは言えないけど自分で食べるのはOKだと聞いている。


作って食べるのも勉強になるからじゃんじゃん作れとも言われているから作ればいいのに。


店の鍵を閉めて当番は終わりだ。



「嬢ちゃん!お疲れ様だっちゃねぇ」



最近、夜遅くなった場合の迎えは海じゃないことが多いのに、今日は珍しく海の迎えらしい。


何かあったのかと思い海の顔を見る。



「ん?なーで?はよ乗りーな」



後部座席を開けてくれたが私が乗らずに海の顔を凝視しているから不思議そうに見てくる。


まぁ、今のところは特に変わりないか。


車に乗り込み、リュックの中からスマホを取り出す。


亜紀がアメリカに戻ってから毎日スマホをチェックしている。


特別な内容ではないが、写真付きで送られてくる。


その日に食べた料理の写真や、大学の壁に描かれたアート作品など様々だ。


食生活は荒れているのかと思ったが、意外としっかりしている。


パック売りのサラダとか、パック売りのササミとか。


今日はラーメンの写真だった。


こってり系のラーメンだなぁ。


日本食が食べたくなると自分で作らず食べに行くそうだ。


毎回、日本食を食べるなら自分で作った方が安いのかもしれないけど、時々ならお店で食べたほうがいいのかもしれない。


それか、調味料を持っていくしかない。



「今日はどうしたの?」



「ん〜?どうしたって言われてもなぁ、別にお仕事をしているんよ?」



「送り迎えしてなかったでしょ?落ち着いたのかしら?発情期」



「フグッ!な、なんつーこと言っちゃってんッ!!」



「似たようなものでしょ。長い発情期だったわね」



「これは怒られているんか?仕事はしっかりやれって怒られているんか?」



「マンションから出たとは聞いてないけど」



「………………グサグサ来る」



「で?」



どうなんだ?


大事なところはしっかり聞きたい。



「………………離れてもそこまで影響はない。そろそろ引っ越し」



「そう。発情期、終わったのね」



「言い方ッ!!どうにかならん!?」



だから似たようなものだからいいでしょ?


簡単に言えばそうなる。

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