第429話

顔を真っ青にさせているのか、呆然としているのか。


それとも何も変わらず黙っているだけなのか。


そんなことを考えながら、風間の様子を確認したところ眉間に皺を寄せてめちゃくちゃお父さんを睨んでいるのを見た。


えー、余計なことを言うなよって?


ビシバシ感じる威圧感にお父さんは完全に無視をしている。



「真理亜ちゃんさ。大学にいい人いないの?優しい人とか、会話をして楽しいなって思う人はいないの?」



風間のことを完全無視をしたまま真理亜に質問している。


風間も止めろって言わないんだね。



「いい人?いい人………………いい人ですか。えっと、いい人………………」



「う〜ん。鈍い子になっちゃったかな。なんだか悪いことしちゃった気持ちだなぁ。これ、俺たちの責任でもあるよね?報告書、読む度に思う」



真理亜は必死に答えを出そうと考えているようだがいい答えが出てこないらしい。



「性格悪すぎだろ」



ここでやっと話した風間はお父さんから視線を逸らさない。



「何言ってるわけ?君はどうなのかな?性格の悪さならそっちが上でしょ。ズルズルと続くわけにはいかないよ」



「見切りをつけるのは俺だ」



「自己中心だね。だからダメなんだよ」



ピリピリした空気が流れ出した。


そこに真理亜の「あっ!思い出した!!!」という明るい声が響く。



「食券買う時にお金が足りなくて、お昼ご飯が食べられない!って思っていたときにお金を貸してくれた人がいました。助かりましたよ。お昼ご飯なしになるところでした」



違うと思う。


お父さんが言っているいい人はそっち系ではないと思う。


確かにいい人ではあるけど。


というか、よく知らない人にお金を貸した人も凄いな。


学食だから安いかもしれないけど、お金であることは確かだ。



「それは俺が言ってるいい人には当てはまらないかな」



「でも、よく助けてもらいますよ。授業中に凄くお腹が空いてグーグー鳴っている時に隣からお菓子を渡してきたり、アイスを零して1人絶望している時に友達と一緒に食べていた箱アイスのあまりをくれたり」



「見事に食に関することだね。その人、よく食べる子だなぁって思ってるかもしれない」



「さすがですね!大盛りの皿を見てびっくりしてました。引くというか驚いてるというか。胃がどうなっているのか気になってましたね」



「普通はびっくりするよね。真理亜ちゃんみたいな子が大量に食べられるなんて思わないだろうし」



「………………」



「あれ?真理亜ちゃん?急にどうしたの?」



急に黙った真理亜は百面相をしている。


今度はなんだ?


また何かを思い出したのか?



「いや、大盛りで提供してくれるお店があるから今度行こうって言われてたなぁって。いつだっけかな」



食事に誘われたの?



「えっ!?誘われたの?それは初耳。行くんでしょ?」



「みんなで行くんです」



「みんな?」



「打ち上げ的な感じです。面倒な課題が終わったので、みんなでパーッとしたいねってなりまして」



「あぁ、2人っきりじゃないのか」



お父さんは凄くガッカリしている。


というか面白がってるよね?


真理亜の大学生活がどんなものなのか正直分からないが平和なのは確かだ。


隣にいる風間の心は荒れているかもしれないが。


その場に乗り込む………………かもしれないな。


そうなると騒がしくなるからやめてほしい。


が、そんなこと考えないだろう。



「私、そろそろ帰るね」



真理亜は立ち上がりバッグを持とうとしたが、その手は空振りに終わる。



「送る」



風間が真理亜のバッグを持ちドアに向かって歩いてしまったのだ。



「ちょっ!私の!返せ!」



真理亜は飛び出すようにお店から出て行った。



「強引な奴だな。アイツ」



光さんは呆れ気味に言う。



「少しでも点数稼ぎしたいんでしょ。さて、俺たちもそろそろ帰ろうか」



お父さんが立ち上がると私も続いて立ち上がる。



「今日はありがとな」



「別にいいよ。こっちも同じだし。凛にとっていい勉強になったんじゃないかな?また来るよ」



「よろしくな」



私はお辞儀をしてお父さんの後を追った。

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