第425話

お父さんは真理亜だけを呼んだのかもしれないが、ひとりで来るわけがないと思ってはいた。


光さんもそう思っていたのか同じ料理がテーブルに置かれている。


というか、種類が凄い。


前からあるメニューもあるけど………………


それを少し変更したってことだよね?



「うわぁ、凄い。こんなにたくさん!」



「これ、全部試作品か?こんなに食べるのか?」



うん……うん、まぁ、うん、雪やミンエイさんだと思っていたのに、風間が来てしまったのね。


一体、どこでこんな風になったんだ?



「では、いただきます」



真理亜は遠慮なく料理を食べ始める。


手元にはペンとメモ。


しっかり料理の評価はするらしい。


モグモグと食べながらペンを持つ手は動いている。


器用だなぁ。



「庶民的な味」



風間は黙って食べろ。


ここでフランス料理が食べられると思ったのか?



「風間の坊ちゃんが、こんな店に来るなんてなぁ。しかも女を追いかけて。これを一般的にはストーカーって言うんだろうなぁ」



光さんは作業をしながら言った。


フライパンで何かを炒めているようだけど、まだ何か作っているのか。



「どれも美味しいです!」



真理亜はそう言っているが、メモにはビッシリと文字が書かれている。


どんなことが書かれているのか気になって覗いてみると、少し味が濃いやら少し甘いやらダメ出しコメントだ。



「男には物足りない大きさだな、このハンバーグは」



風間は味より量が気になるらしい。



「それは一番少なめなやつだ。グラムは選択できる。お客さんから言われたんだ。量を増やして欲しいって。でもな、それぞれ食べる量は違うからな」



選択式って作るの大変だよね?


全部同じ量じゃなくなるし、下準備が大変そう。


今のところ調理担当は光さんしかいないし。


全部やろうとするのは無理がある。


メニューだって多いし。



「光さんが全部調理するんですよね?それぞれ、調理の手順も使う食材も違います。1人で行うにはかなり大変ですよね?」



「お〜っ、それな。まぁ、何も考えずにバンバンメニューを出しているわけじゃない。俺だっていつまでここに立てるのか分からない」



悲しい言い方だけど、ずっと体力が続くわけじゃない。



「光は海に任せようとしているんだよ。あれでも頑張って育てているし。調理師免許も取らせるらしいよ。海はこれといった資格がないから」



「お〜い、なんで誠也が先に説明するんだ?それは俺が説明するもんだろ」



海が調理師免許?


………………。


取れるのだろうか?


海より大塚さんが先に取るかもしれない。


そして、ここで働くってこともあり得るな。



「海より大塚さんが先に免許を取るのでは?」



「そうだな」



そうだなって………………


メニューの数はこれから増えるんだよね?


海の免許取得を待っている場合ではないと思うけど。



「海の免許を取るまで待てないのでは?」



「配膳やら食器洗いやらレジやらは海が全てやっている。分担すればできる。あと、これ全部がメニューに載るわけじゃないぞ。1つか2つくらいだろ」



こんなに作っても採用されるのは1つか2つか。



「アイツが調理師免許?そんなことまでやらせるのか?」



風間は呆れ気味だ。


そこまで面倒を見るのか?ってことだろう。



「君と違うからね。社会復帰だよ」



「社会復帰?いや、おかしいだろ。一度も社会に出たことないぞ」



「同じようなもんだよ。中学生頃からだっけ?」



「中学生はまだ子供だろ」



「何言ってるの?大人の仲間だよ」



「どこ基準だ?」



正直どうでもいい。


今はじゃんじゃん作られる料理に専念しなければ。


真理亜はしっかり食べてしっかり評価しているし。


あっ、この豚汁美味しい。


生姜多め?


生姜の味がしっかりする。



「誠也、喋ってないで食え。んで、評価をしろ。お前はそのためにいるんだ」



「分かってるよ。食べてるよ。これ、味が濃いよ。塩胡椒かな?変えてみたら?あ〜、あとこっちのサラダ。ドレッシングがイマイチ。後味が悪い。さっぱりなものにしたほうがいいと思う」



「紙に書け、紙に!こっちはメモしないからって言っただろ!」



光さんはテーブルの上に置かれた紙を指差した。

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