第424話
休みの日はバイトが入ることが多いため、サークルの研修は断った。
工場見学より光さんのお店で働いていたほうが勉強になるからだ。
何か貰えると言われたけど、別に欲しくはないし。
それに、新しいスイーツのメニューを早く作らないといけない気がした。
だから今日はお父さんを光さんのお店に呼んで打ち合わせをしているのだから。
「まぁ、最初の頃と比べると成長はしてる。誠也はどうだ?」
光さんは私のスケッチブックと試作で作ったスイーツたちを見ながら言った。
「頑張りましょう、だね。発想は悪くないけど、中身がスカスカ。例えば、生クリーム。ふわふわな生クリームがいいのか重たい生クリームがいいのか。生クリームでも色々あるでしょ?一つひとつ丁寧に考えなきゃね」
お父さんは私が作ったスイーツをスプーンでツンツンと突いている。
うん、お父さんもある意味頑張りましょうだ。
顔がなんとも言えない表情をしている。
「あ〜、このチョコはビターすぎる。甘さが足りない。なんで苦味を強くしたんだ?大人向けにしたかったのか?。斬新ではあるが………………チョコケーキは甘いイメージが強いからな」
流行にただ乗っただけだ。
特に何かあったわけではない。
「光、これ食べてみて」
お父さんは先ほどツンツンしていた生クリームを光さんに差し出す。
「あ〜、まぁ、うん。不味いわけではないが、軽いものじゃないほうがいいだろうな」
「だよね。ぐちゃぁってなるのがねぇ」
やはり、生クリームが問題らしい。
「こっちのパンケーキの生地は悪くないよ。量もちょどいいと思う。後は、調整が必要かな。しっとりがいいのかふわふわがいいのか。厚みも調整しないと。ソースは何がいいのか。生クリームたっぷりなのか、フルーツたっぷりなのか」
「こっちのプリンに乗っている生クリームは軽いがパンケーキの生クリームは重いな。逆だぞ、逆」
間違ったわけではない。
ただ、なんとなく………………
それじゃダメなんだけど。
「このパフェは層が綺麗じゃない。パフェは見た目も大事だよ。チョコパフェだから茶色が多くなるのも分かるけど」
「上にかかっているのはクッキーか?ビター味だな。これは悪くないぞ」
作ったスイーツを全部確認する頃には、お腹いっぱいになったのか2人は気持ち悪そうだった。
いや、甘い物を食べ過ぎたから気持ち悪いのかもしれない。
それを横目に光さんが作ってくれたフルーツたっぷりのパフェを食べている私ってどうなんだろう?
「凛、ほどほどにしないと夕ご飯食べられなくなるよ」
「別腹。私よりお父さんは大丈夫なの?作った私が言うのもあれだけど、いっぱい食べたよね」
「胸焼けしそう。俺は少しだけ食べる。凛は食べて。光が新しいメニューを作っているから、それを食べて欲しいって」
「………………それ、お父さんも食べなきゃいけないものじゃないかな?午後の営業を休みにしたわけだし。協力しないとダメなんじゃ」
「真理亜ちゃんを呼んでる。たくさん食べられて、味もしっかりコメントできる子は真理亜ちゃんくらいでしょ。兎に角、食べてもらわないと」
真理亜?
たくさん食べることはできるけど、味についてはどうだろうか。
グルメではあるけど。
「他の人には?食べてもらわないの?」
「食べてもらったよ。それぞれの意見が聞きたいって。1つ2つだけじゃないからね。だから、ほどほどにしなさいって言ってるの」
「これは別腹」
食べ放題もそうだ。
最後にお腹いっぱいなのに食べるスイーツは食べられる。
「なぁ?俺、もう帰ってええかなぁ?」
奥の部屋から顔を出したのは海だ。
「皮剥き終わったのか?なら、米を洗え。炊く準備をするから。剥いた野菜はこっちに持ってこい」
「なぁん、帰らせてぇなぁ」
「まだ早い」
海はカゴいっぱいに積まれた野菜をカウンターに置く。
それから米研ぎを始めた。
「海はちゃんとやってる?」
「あぁ、今のところは大丈夫だ。馬鹿になってるが、やらかしてはいない」
「そっか、やらかすようなら始末してね」
「分かってる」
2人してニコニコな顔で話してるけど、会話の内容は面白くない。
「なんか、怖いこと言われたっちゃね。あ〜、ここに癒しはないんやねぇ!」
力を入れて米を研ぐな。
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