第422話

アルバイト初日。


すでに頭がグルグル回っている。


学校のお店と違ってメニューは豊富だし、配膳やお皿の片付けにレジなどやることが多すぎて。


そして、極め付けは会話だ。


常連さんからたくさん話しかけられる。


それの受け答えが非常に疲れる。


こうやって喋るんですよ〜みたいな感じで海は喋っているが、それと同じことは出来ない。



「凛、ナポリタンとハンバーグが出来た」



「はい」



光さんがカウンターに出来上がった料理を置く。


それをトレーに乗せて運ぶ。



「お待たせいたしました。ナポリタンとハンバーグセットです」



「私、ナポリタン!」



手を挙げてくれた人の目の前にナポリタンを置く。


向かい側の席に座っている人の目の前にハンバーグセットを置いた。



「こちらに伝票を置かせていただきます」



「あっ、メニューは置いたままにしてくれる?」



「かしこまりました」



何か追加で注文するのだろうか?


メニューを下げないで端っこに立て掛けてその場を離れた。



「凛!会計頼む!」



「はい」



次から次へとやる事が増える。


会計が終わるとテーブルに乗った食器を下げて次のお客さんを通す。


お水を運ぶ、料理を聞き光さんに伝えて食器を洗う。


料理ができたら運んで、その帰りに呼ばれて注文を受ける。



「あれ?見ない顔。新しく入ったの?」



何回聞かれるのかな。



「お手伝いです」



「お手伝い?娘さんじゃないよね!?子供はいないって言ってたけど。このくらいの子がいてもおかしくないか」



「違います。ただの知り合いです」



「へ〜ぇ、知り合いねぇ。こんな可愛い子と知り合いなんだねぇ。意外」



「はい………………」



なんて言ったらいいのか。



「あっ、注文だけど、和風ハンバーグセット。ご飯は少なめにしてちょうだい。飲み物は食後にホットコーヒー。それと、プリン」



「かしこまりました」



注文された料理を光さんに伝えてから皿洗いを再開する。


同じことの繰り返しのようにも思える。


14時過ぎに最後のお客さんが帰って、一旦お店は終了だ。


遅めのお昼は光さんが作った南蛮チキン丼だ。



「凛、どうだ?」



「忙しいです」



「だよなぁ。見てて、慌ててるなって思った。慣れないことをしてるから無駄な動きが多いし。周りが見えてなかっただろ?お客さんとの会話だって流しだな。まぁ、初日はそんなもんだ。海よりマシだぞ。アイツは注文を1回で聞けない。皿は割るし、変な方言で会話にならないし。散々だった」



あぁ、変な方言で通じないからマトモな言葉を使うことにしたんだよね。



「ひでぇなぁ。んな、表さん相手てぇにまともに話すんのひさーで緊張しちょったんっちゃね。頬の筋肉ピクピク動いてんよ。拒絶しちょったん。なーでなーで」



「今日の訛りは酷いな。疲れているのか?疲労が溜まると訛りが酷くなるだろ」



へ〜ぇ、海って疲れると訛りが酷くなるのか。


それは初めて知ったな。



「ちゃんと寝てるのか?彼女ができて浮かれてるのはいいが、体だけは壊すなよ」



「なーでなーで。家にもどちょるとポカポカするんよ。えれー体験やわぁ」



「いい体験をしているようだが、睡眠はしっかりとれ。いつ何が起こるのか分からない」



「わーわー」



………………。


酷いな。


限界が近いのかもしれない。



「凛は夕飯食べていけ。デザート付きだ」



「いいんですか?」



「頑張ったご褒美だ。誠也には伝えてあるし、好きなもん作ってやる」



やはり、パフェにしようかな。



「デザートだけはダメだからな。飯も食え」



私が考えていたことが丸分かりだったらしい。


パフェだけでも結構量があるのに。


でも食べない選択はない。



「ええなぁ、テイクアウトで作ってくれん?」



「お前にはない。仕事が終わったら早く家に帰れ」



「なーでわー」



「何言っているのか分からん」



大塚さんの前だとどうなのかな?


今度聞いてみようかな。

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