第421話
休みの日。
光のさんのお店に1人で来た。
事前に行く日を伝えていたからなのか、お店はお休みにしたらしい。
「退院してからすぐに働くって凄いですね」
「当たり前だろ。収入が減る。長く休むと客入りが悪くなるし」
腕の包帯が気になるところだけど。
「海の手伝いは?」
「忙しい時に呼び戻しだ。暇な時は裏の仕事を任している。この手で裏の仕事はキツイからな」
「そうですか」
「持ってきたか?」
「はい」
電話をした時に書き込んだスケッチブックを持って来いと言われた。
まとまわりがないものだがそれでもいいらしい。
それを光さんに渡す。
「お〜、いっぱい書いたな」
「全部ボツですけど」
「誠也に見せたんだろ?」
「はい」
「無言で突き返されたらしいな。そのあと連絡が来た。あのアホは冷たいことしちゃったって嘆いていた。娘に対して厳しくするのに慣れてないからなぁ」
あ〜、冷たくしちゃったというか。
お父さんのあの時の表情がなぁ。
凄く我慢していたというか、なんかこっちが申し訳ない気分になった。
スケッチブックを返されたあと、チラチラ何度も見てくるし。
あれくらいで諦めるつもりもショックを受けることもないのに。
反対に甘々でやられたほうがショックだ。
「どうですか?」
「このままじゃメニュー追加は無理だな。どれもパッとしないし、美味しそうに見えない。どこにでもあるようなスイーツだな。あ〜、あとこれに書いてあるヤツを作ろうとすると金額が高くなる。この店はスイーツ目当てに来る客は少ない。そうなるとサブ的なものになるだろ?」
やはり、1000円以下くらいの金額がいいよね。
思いつくものを全部書いたから、金額面は無視だ。
「凛はどんなスイーツが好きなんだ?パフェとかパンケーキとか色々あるだろ」
「どんなと言われても………………パフェは好きです。色々乗っているパフェが好きです。クッキーとかよりフルーツですね」
「なんでクッキーじゃダメなんだ?」
「口の中がモサモサするのが嫌です。ブドウがたくさん乗っていたりイチゴがたくさん乗っていたり。タワーみたいになっているのがいいです」
「中は層になっているのがいいのか?スポンジだったりゼリーだったらムースだったり色々あるだろ」
「スポンジよりゼリーとかムースがいいです。アイスもいいです。綺麗に層になっているのがいいです。間に空間があるのは好きじゃないので」
「ケーキはどうだ?チョコとか定番のイチゴショートもあるだろ?」
「タルト系が好きです。フルーツたっぷりの」
「凛はフルーツを使ったものが好きなんだな。で、自分なら何を食べたいのか何が食べたくないのか答えること出来るだろ?今度は家族や友達で考えるんだ。誠也は何を好んで食べる?麻矢さんも何が好きなんだ?友達の真理亜ちゃんや希ちゃんも何が好きなんだ?それをどんどん広げていく」
お父さんとお母さんが好きなものか………………
色々食べるけど2人とも好みはある。
「凛はまだ考える力が足りない。店を見て回ったりネットで見たりするにもいいが、それだけじゃ足りない。連想するには周りから始めるのがいい。自分ならどうなのか、家族ならどうなのだ、友達なら?知り合いなら?隣のクラスの人なら?最近、みんなが話題にしていることは?って。興味を持つ、そして探す、聞く」
あっ、コミュニケーションが低い私には難易度高めかもしれない。
急に話しかけることは難しいから、周りから攻めろって言ってるらしいけど。
成し遂げるのにかなりの時間がかかりそうだな。
「お〜い、凛。遠い目をするなよ。誠也は店に張り付いていたぞ。どんな客が来るのか。いろんな店で。そこで、始めるか。店の手伝い。今の海は正直使いもんにならねぇし」
ここでその話が出ましたか。
「分かりました」
「この店は客に声を掛けられるのが多い。いいか?はい、で終わらすなよ」
いくらなんでもそんな言い方はしない。
裏の頃に私じゃないんだから。
お手伝いは勉強が疎かにならない程度で、授業がない休みの日や夜の少しだけなど。
お手伝いに関してはお父さんも了承済み。
あとは私次第だろう。
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