喜び
第420話
夏休みが終わっても暑さは健在である。
日本の夏は長くてジメジメして蒸し暑い。
乾燥していたらこの暑さもそこまでキツくないのかもしれないけど。
カラッとなる日は来ないだろう。
秋はどこにいってしまったの?
「外に出たくない日だね。太陽がサンサンと輝いているよ。みんな涼しい場所を探してさぁ………………日影の席がない。中庭でお弁当を食べる勇気はないよね。日傘もないし」
大塚さんの手にはコンビニで買ったサンドイッチがあった。
お弁当率が高いのに、初日からずっとコンビニで買ったものらしい。
家に帰れたのか聞いてみたら、別荘から出てマンションにいるらしい。
少し家に近づいてはいるが………………
2人であのマンションで住んでいるらしく、海の送り迎え付きらしい。
まぁ、無事ならいいや。
「ここ数日は猛暑らしいよ。熱中症に注意しましょうって天気予報の人が言ってたから」
お父さんは帽子を被っていきなさいって何度も言っていたなぁ。
あと日傘も持たされた。
「天気予報の人は毎回言ってるからね。海さんもいつも言ってる。場所、どうしようか」
「教室に戻って食べよう。気分転換しながら食べるのは諦める」
教室の外で食べたいが、涼しいところは先を越されているので諦めるしかない。
食堂だっていっぱいだし。
教室に戻って食べていると日向が近寄ってきて私にプリントを渡してきた。
「これは?」
「サークルの研修。自由参加だけど。今回は近場の工場」
あぁ、サークルの研修か。
プリントの内容を確認すると短大から車で1時間ほどの場所らしい。
見学するのはお菓子の工場。
大きな工場ではなく街中の小さな工場だ。
まぁ、近場だから日帰りだな。
「考えておく」
「先方に人数を知らせないといけないから早めに言って」
「分かった」
日向は用件が済むと教室から出ていった。
「近場で済ますんだねぇ」
「遠出だとお金が大変だからね。このくらいがちょうどいいと思う」
京都は遠すぎた。
やはり、何事も近場から始めてみるべきだろう。
「どれどれ………………おっ、冷凍食品の工場か。これ、見て終わり〜ってなわけないよね?お土産に何か渡すかもしれないよ」
それ目当てで行くわけではないけど。
お昼を食べて午後の授業も終わり帰りの時間になった。
大塚さんと一緒に教室を出て門のところまで行くとポケットに片手を入れて、もう片方にスマホを持ちながら立っている海の姿が見えた。
なぜだろうか………………
普通に立っているだけなのに、普通に立ってないように見える。
はて?
どこかおかしいところがあるのだろうか?
「お疲れさん」
「海さんもお疲れ様です」
「かわええなぁ。マジで俺の彼女さんはええ子。なんでそんなんええ子なんだっちゃ?」
海は大塚さんの頬を撫でる。
周りに人がいるのに気にしないらしい。
大塚さんは恥ずかしいみたいだが拒否することはない。
顔が真っ赤になってる。
「今日は真っ直ぐ帰ろうなぁ。仕事、全部終わらせたんよ。はよー帰りたい」
「コンビニ寄ってもいいですか?」
「ええよ」
スリスリと撫でるのをやめない。
ずっと触れてないと落ち着かないのかもしれない。
あっ、バスに乗り遅れる。
この2人のやり取りを呑気に見ている場合ではない。
「じゃ、バスの時間あるから帰るね」
「あっ、嬢ちゃん。伝言あるんけど。光さんが店に来てって言ってんよ。休みの日でええって」
お店?
例の件かな。
まだ、形になってないけど。
「分かった」
2人と分かれてバス停まで小走りで急ぐ。
バス停に着くと乗車が始まっていた。
間に合ったようだ。
空いている座席に座ってから深呼吸する。
そして、先ほどの2人のやり取りを思い出す。
あの時は観察している気分だったからあまり感じなかったけど。
あのやり取り恥ずかしいものだよね?
大塚さん、凄いなぁ………………
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