第419話

お父さんが退院して家に戻ってきた。


やっと家族3人と一匹が揃った野田。


だが、ケイやお父さんのことを警戒しまくりだ。


忘れてしまったのか、気分なのか………………


壁に取り付けられている箱の中に入ってずっと出てこないのだ。


今は無理だがそのうち出てくるだろう。


お父さんは我が家の冷蔵庫チェックを隅々まで行い、ジロリとお母さんを見た。


必要ないものを買い込み、それをまだ使い切ってない惨状に苛立ったらしい。


食品を無駄にするのは許せないのだ。


そして、それを使ったので夕食が豪華になる。


久々のお父さんの料理が凄くおいしかった。


そして、量が適量だ。


お母さんは大鍋で調理するのが多いから。


この前のカレーも3食カレーだった。


カレーは暫くいいかな。



「冷蔵庫が魔窟になるところだったよ。なんとか助けることができた」



「ちょっと、その言い方おかしくない?魔窟ってどういうこと?家計のために頑張っているのに」



「家族3人だから。3人。分かる?3人」



「そんなの分かってるって」



「………………」



あっ、これは本当に分かっているのか?って顔をしている。


お父さんが疑うのも分かる。


いつもお母さんは1個買えばいいのに3個買ったりしている。


買い物担当を決めればいいのでは?



「ねぇ?今日のお昼はどうする?」



「マカロニの賞味期限がヤバいからグラタンにする。マカロニサラダも作っておこうかな」



「マカロニ茹でようか?」



「マカロニサラダをお願いしようかな」



「分かった」



お父さんとお母さんがキッチンに立ちお昼の準備を始める。


同時にキッチンに立って別の料理を作っているのに衝突しないのは凄い。


具材を切る場所とかコンロ周りとかそれぞれ使うのに。


仲がいいというレベルではない。


なんで、そこでぶつからないのだろう。


なんで、タイミングよく移動できるのだろう。


タイミングバッチリだ。


そんな2人をずっと見ながら出来上がるを待つ。


この感じは久々だ。


平和な休日。


家族の団欒。


あぁ、ゆったりまったり。


これだよ。


裏ばかりで忘れかけてしまっていた平和な日常。


怒号やら銃の音やら聞こえない日常。


やっと戻って来られたんだなって自覚した瞬間だった。


張り詰めていた緊張も解かれ、平穏な日常へと溶け込む。


明日は何をしようかな?そうだ、課題がまだ終わってなかった。新発売のチョコのお菓子が出るって言ってたな。買っちゃうかなぁ………………


なんて考えがポンポン出てくるような日常。


そこには裏のことなんて一切出て来ないのだ。


この感覚を大切にしたい。


消したくない。


その日のお昼はなんだか特別な感じがした。


3人で食べるお昼が久々だったからなのか、気分が上がっている。



「凛。そろそろ、運転の練習しないとね。運転手がダメになる前に」



「運転手って海のこと?」



「そうだよ。彼女のことで頭がいっぱいになっているからさ。それに、1人で運転したいでしょ?喜一の件も片付いたし、裏が落ち着けば少しは余裕ができるんじゃないかな?」



お父さんから運転の許可が降りるとは………………


もう忘れられてしまっているのかと思っていたけど。


免許はあるし車だってある。


運転は是非してみたい。


自分で運転ができれば行きたいところに行ける。


電車やバスだと時間が気になってしまうし、お父さんやお母さんに送り迎えを頼むのも。



「運転したい。ペーパードライバーになっちゃうのかと思った」



「短大卒業した後に使うはずだから。就職した場合、マイカー通勤になるかもしれないし。電車やバスで通勤は難しい場合があるからね。会社で社用車を使うかもしれない。練習再開しないとそろそろヤバい。もう一度通うことになっちゃうから」



「車もあるし」



「そうだね。俺と麻矢で交互に乗っているけど、元々は凛の車だからね。忙しいねぇ、光のお店のメニューも考えて車の練習して短大の課題もやってサークルもやって。やることたくさんだね」



うん。


でも、辛いとは思わない。


それが当たり前なんだって思うのだ。


やりたいことはたくさんあるのだから、暇を作ることなんてできない。



「課題はちゃんと終わってる?最後にしっかり確認してね。裏でバタバタしていたけど」



「うん」



あと2日で夏休みが終わる。


確認してやってなかった課題が見つかったら諦めるしかないだろうなぁ………………


そうなったときを考えたら遠い目になった。

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