第418話

亜紀とこれからのことを話し終えたタイミングでお父さんと光さんが戻ってきた。


双子と孝文さんはまだ戻って来ない。


何やら蓮さんが可愛い看護師さんを見つけて話しかけているらしい。


それを愁さんは隣で聞き、孝文さんはバカなことを言わないか見張っているらしい。


病院でナンパをする人って本当にいるんだね。


可愛い看護師さんだからって口説かないでよ。


………………職業病じゃないよね?


ホストだから客引きな感じで話しかけているわけじゃないよね?



「亜紀君。限界みたいだね?無理しないで大人しく寝てなよ。睡眠大事だよ。後遺症なんて残ったら大変だ」



眠いのか瞼が下がっている亜紀を見て嬉しさを隠さないお父さん。



「性格悪すぎだろ。少しくらいいいじゃんか」



「父親としては嫌だよ。たくさん話したでしょ?はい、寝ましょうね」



亜紀の目を手のひらで隠す。


それで寝られるもの?


そう疑問に持つがあっさり眠ってしまった。


なんで?



「よし、寝た。ペラペラ喋ったみたいだし、きっとあっちでも頑張れるはずだよ。充電できたよ」



「お前なぁ、もう少し心を広くしろよ。コイツは問題ないだろ。そこまで手は早くない」



「父親がいる目の前でキスをする野郎が手は早くないって言える?」



「どっかの誰かより遅いし、表向きの考えをしているだろ」



光さんは柚月のことを言っているのか。



「はいは〜い!凛ちゃん、そろそろ帰る………………あれ?なんか雰囲気おかしくない?何かあった?」



博さんテンション高めで病室に入ってきた。


ゼリーのお届けは無事にできたらしい。



「何もないから凛のことよろしく頼む。今は、誠也に声を掛けないでくれ。機嫌が悪いから」



「あ〜、うん。んじゃ、帰ろうか…………」



博さんは、ハハッと軽く笑い私の腕を掴んで病室から出ていく。


帰りに孝文さんたちをバッタリ会ったが、挨拶をそこそこに済ませて病院から出た。


博さんは車に乗り込むとため息を吐いた。



「博さん?お疲れですか?」



「ん〜、いやぁ、お疲れとかじゃなくてさ。父親って大変だなぁって」



………………。


あの、父親になるんですよね?


今からその発言はどうなのでしょうか?



「どの辺りで大変だと思ったんですか?」



「凛ちゃんには分からないだろうね。複雑なんだよ。父親の気持ちって」



そうですか………………



「博さんも色々大変になるってことですね」



「青春だなぁって能天気に考えてちゃダメなんだね」



父親の自覚か何か?


今から重くなってしまっては大変そうだな。


家に着くとカレーの香りが家中に充満していた。



「今日はカレーなんだね」



「カレールーの賞味期限が危なかったの。こういうのって長期保存できるじゃん?んで、安いからじゃんじゃん買ってさ。あれ?どれが古いものだっけ?ってなったんだよね。見たら凄くヤバいのが1箱あった」



「そっか。危なかったのか」



1箱って12皿分とかじゃなかった?


だから、大きな鍋で煮込んでいるのか。


………………。


博さんにお裾分けすればよかったな。



「亜紀君には会えたの?」



「うん、元気そうとは言えないけど。会話はできたよ」



「そっか。話ができたなら良かった。亜紀君。起きたと思ったらすぐ寝ちゃうから。凄くボロボロらしいからね」



「聞くの忘れてた。亜紀の両親は来てるのかな?」



「来てないって。今の亜紀君は預けられているから。会うべきではないって言ってるらしいの。でもね、電話で話はしたらしいから。全く関わらないってわけじゃないから」



そっか。


電話で話はしているのか。


子供が大怪我をしたならすぐにでも駆け付けたいはずだ。


それを抑えて電話だけで済ませた。


なんだか申し訳ないが、それを言葉にすることはできない。


ジュンさんにまた言われてしまいそうだ。


亜紀の覚悟を否定するような言葉は言ってはいけない。

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