第417話

「真理亜の件は今のところ大袈裟にするものじゃないけど、こっちはびっくりすると思う。大塚さんのことなんだけどさ」



海と大塚さんが付き合ったということを話したらどう反応するだろうか?



「さっき、博さんの別荘に行ったんだけど。そしたら、海と大塚さんが付き合ったって聞いたの」



「あ〜、ん〜………誰と誰?」



「だから、海と大塚さんが」



「………………んなアホな」



声に強さはないが、目がカッと開いているからびっくりはしているらしい。



「なんで、アイツが先を越すんだよ。あっちはずっと後だろ。何、覚醒してんだッ!」



「本当にどうなるか分からないものね。今は、爆弾抱えているようなものだから、暫く別荘で過ごしているらしいの。家に帰したら海が閉じ込めに走るかもしれないからって。もう閉じ込めに走っているかもしれないけど」



「負けた。そんな嘘だろ。なんでアイツが先なんだよ。おかしいだろ」



………………。


なんか、違うこと考えているよね?


2人が付き合ったことより、海に対してだよね?


先を越されたと言われてもねぇ。


私がいる目の前で言われても困る。



「きっと結婚も早いでしょうね」



「お前、分かっててトドメを刺しにきたな」



「現実だから。海より大塚さんが凄いと思うけど」



「凛も積極的に行動しろよ」



そんなこと言われても。



「なら、積極的に合コンに行こうかな。そこで、みんなの話を聞いて学ぼう。男女の話は色々勉強になりそうじゃない?」



「そんなところ行っても分からんだろ。なんでそうやって学ぼうとしてんだよ。ここに居るだろ。ここに」



「冗談だから」



人様のことを見てもあまりピンとこない。


やはり体験してみないとダメだ。


体験と言っても難しいけど。



「亜紀、手を握って」



私は右手を差し出すと亜紀はその手を握ってくれた。


………………。



「何やってんだ?」



「ドキドキするかなって」



「これは握手だ。鈍いんだから無理だろ」



だよね。


今だと普通に握っただけだし。


握力が弱いけど、私の手を握ってくれている。



「亜紀の手、意外と大きかったんだね。こんなにじっくり見たことなかったかも。引っ掻き傷ある」



「ムーンだ。まだ懐かれてない時にやられた」



なるほど。


何ヶ所もあるから相当やられたのだろう。



「アメリカに行ったらもっと傷が増えるのかな?」



「増えないように努力はする。全く無傷は無理だろうな。顔に傷ついても離れるなよ。離さないけど」



「それで引いたりしない。目玉吹っ飛んでも。顔面破壊になっても。私は、顔で選んだわけじゃないから。内面が変わらなければ引かない」



「なら、綺麗な内面のまま帰ってくる」



「………………」



「えっ?なんで黙る?なんでそこで引くわけ?」



綺麗な内面って………………


無理があるでしょう。



「亜紀のその自信はどこから来るわけ?綺麗ってどこ?」



「綺麗だろ。少年の心を持ってるぞ。裏には珍しいだろ。俺は、この心を大事にしようと思う」



まぁ、うん。


健康体ならいいや。



「時差関係なく連絡しそう」



「夜は寝てるからね。出ないよ。朝も忙しいから無理。日中は学校に行ってるから」



「冷たいこと言うなよ。連絡してって言えよ」



「時間をみて連絡はする。写真も送る。友達と出かけた写真とか、作ったデザートとか」



「送れ送れ。たくさん送れ」



「柚月には送ったりしないからね。亜紀だから送るの」



そう言うと亜紀は嬉しそうに笑った。


そして、大きな欠伸をする。



「私はこっちで頑張るから、亜紀も自分がやりたいようにやって。でも、分かっていると思うけど線は越えないで。私は、全てが染まるようなことは望んでない」



「言いたいことは分かってる。そうならないように行くんだ。線を越えたら凛に会えなくなるからな。そんなことしたら、アイツだけになっちまうだろ。んなことさせねぇぞ」



立場は違うけど張り合いがいるほうがいいのか?


柚月にそういう感じはあまりないけど。



「俺にはないもんがあっちにはある。それを学び自分のものにすることで、俺がやりたいことができる。日本じゃ手助け多くて甘えちまうから」



亜紀に不安はないようだ。


自分の考えがしっかりあるからだろう。


この男はブレないなぁ。


そこも亜紀の良いところだ。

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