第416話

「愁、見たか?アイツ、頑張って話してるぞ。俺たちには冷たいのになぁ。凛ちゃんには優しいよなぁ」



「ちょっと空気を読みなよ。今は黙ったほうがいいよ。むず痒いのは分かるけどさ。初々しいのもいいと思うけど」



今回は孝文さんじゃなく愁さんが止めてくれた。


だが、愁さんも一言多い。



「だってさぁ、微妙な距離感じゃ……んガッ!!」



「うるせーッ!」



亜紀はプラスチックのコップを蓮さんに投げた。


顔面に命中したのは凄いと思う。


プルプルと震える手でよく投げたもんだな。



「はぁ、ちょっと双子のこと連れ出すよ」



孝文さんはズルズルと双子を引き摺り外へと連れ出した。



「俺も何か飲み物でも買ってくるか。誠也も行くぞ」



「いや、俺はいるから」



「娘に嫌われたくないなら出ような」



そして、お父さんも光さんによって連れ出されてしまった。



「なんか、めちゃくちゃ気を遣わせてしまっている」



「もっと早くしろって。見せ物じゃない」



態度がデカいな。


だから揶揄われるのに。



「ゼリーがあるけど、食べられる?」



「悪いけど食べられないな。食欲ない。薬が抜ければ元に戻るけど」



「眠気もそうだけど強い薬なのね」



「しょうがないだろ。回復するスピードを上がないと。んで、あれから少し経ったが感覚は大丈夫か?」



「大丈夫。安定感は凄くある。ここ一番の安定感」



「………………そっか」



「亜紀は相変わらず複雑でしょうね」



「柚月に対しては?」



「船で起こったことを変わらない」



「だよなぁ。変わるわけないか。アイツもそうだろうな」



「そうね。念の為に言っておくけど、恋愛感情の類ではないからね」



恋愛感情はあまり分からないが、そんな綺麗なものではないのは確かだ。


柚月だってそうだろう。



「分かってる。お前らの関係はそんなんじゃない。もっと縛りが強いもんだろ。縁を切ることが出来ない関係だからな。なぁ?俺がいない間、アイツとどっか出かけたりするのか?遊んだりするのか?」



そんな関係じゃないって分かっているのに聞くのね。


全く出かけないというわけではないと思うけど。


遊んだり、どこか旅行に行ったりはしないだろう。


柚月もそんな考えはないはずだ。


というか出来ない。


あはは、うふふ…………なんて無理だな。


そんなわけ分からんことにはならない。



「遊んだりとか想像できない。亜紀なら想像できるけど。柚月と一緒に遊園地とか?水族館とか?」



行ったことはあるけど。


楽しいというより、勉強に近いような。



「頭がフル回転しそうで疲れるから。どっか出かけるのかと言われても、近所のコンビニ感覚だと思うけど。亜紀となら遠出したり、アメリカに会いに行こうと思えるけど」



「なら良し」



納得してくれて良かった。


アメリカに行くという発言が良かったのかもしれない。



「夏休みもそろそろ終わりだよな?」



「うん、あっという間だった。来年はもっと楽しい夏休みにしたい。連れ去られそうになるのはこれっきりにしてほしい。友達と街中を歩いて食べ歩きしたいし、映画館とか行ってみたい」



「そっか。そういう考えが生まれたなら大丈夫だろ。楽しみがあると表で過ごしやすくなる。待ち遠しいっていう考えが出来るなら大丈夫だ」



「そうね。卒業もあっという間なんでしょうね」



短大だから4年間じゃないし、やることいっぱいあると時の流れがあっという間に感じるし。


課題もこれからもっと増えるだろうから、自由な時間も限られてしまうだろう。



「凛の卒業には間に合わないな。大学1年じゃ無理」



「でしょうね。全く会わないってわけじゃないでしょ?今より会う頻度は少なくなるけど。何やら準備しているようだし。私の分もコップとか。来させようとしてますって隠さないところが凄い」



「隠してもいいことないだろ。風間みたいになりたくない。隠しすぎて気味悪いだろ。アイツ。白井に振り回されていればいい」



すでに振り回されていると思うけど。


あっ、そうだ。


あれも言っておこうかな。

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