第415話

「何々?坊ちゃん君起きたわけ?………………うわっ、マジで半分寝てんじゃん。ボヤけてる。寝てろよなぁ」



「蓮も距離感おかしいから。君たち双子は人との距離感を学びなさい。そんなに近寄ることないでしょ」



孝文さんは双子をズルズルと引っ張り引き離す。


孝文さんがいなければ、蓮さんも愁さんも自分勝手に行動していただろうな。


早く退院しないと孝文さんの胃に穴が空きそうだ。


私も立ち上がって亜紀の隣に移動する。


手をフリフリと振るが無反応だ。


やはり意識ははっきりしてないらしい。


また寝るだろうな。


この状態では話し掛けることもできないし。


手を振るのをやめて顔を見る。



「凛、亜紀君はそのままだと思うよ。ずっと見ていてもいいけど」



「うん。そうだね。なんか、不細工のまま変わらないね」



「不細工………………確かにいつもより不細工だねぇ」



お父さんはクスクスと笑う。


さて、大塚さんのことも話しておかないと。


後ろに体をひこうとした瞬間、頭の後ろを押さえられそのまま前に引っ張られる。



「あッ!!ちょッ!」



お父さんの焦った声と同時に虚だった亜紀の目に光が見えた。


あっ、コレは意識がはっきりしたかも。


そして、頭を押さえられたままキスをされた。


病室でみんながいるというのに亜紀は全く気にすることなく私の腰にも手を回してベッドに引き込もうとする。


足が浮いたかも。


そんな力あるんだなぁって呑気に考えてしまう自分がいることにびっくりだ。


亜紀の手に力が入っているんだよね。


絶対に逃さないって感じが凄く出ている。



「長い!長い!長い!父親がいる目の前でこんなの見せないでよ!」



頭と腰にあった手が退かされたのか、体が引っ張られなくなった。


そして、後ろからグイッと引っ張られ姿勢を正された。



「大丈夫か?飢えた男は何をするか分からないから気をつけろよ」



私のことを引っ張ったのは光さんだったらしい。


ではお父さんは?


お父さんは亜紀と手を合わせて押し合えっこをしていた。



「亜紀君は何やってるわけ?起きたらなんで発情してるわけ?つーか、副作用あるのにそんな体力はあるんだ?今すぐに追い出してやろうか?」



「何言ってんだ?そこに凛がいたら抱きつくし、当たり前のようにキスだってするだろ」



「いや、お前が何言ってんの?その考えはどこからきたわけ?」



「やめろって。俺、重症者だから。腕に力入らない。痛いし」



「重症者はあんなことしないんだよ」



「自分の恋人が目の前にいたら興奮するもんだろ。いいから、もう離れてくれよ。マジで手が痛いから。手というか腕」



お父さんはギリギリと歯を噛み締めてからゆっくり亜紀から離れる。


きっと頭を叩きたい気持ちではあるが、怪我人ということは理解しているから我慢したのだろう。



「凛、足は大丈夫かぁ?」



「うん、大丈夫。亜紀は酷い状態ね」



「そうだろ。だから、もっと俺を慰めろ。一緒にここで寝ろ。添い寝だ」



「それは無理。狭いし」



シングルのベッドに2人は無理でしょ。



「あ〜っ、体が重い。痛い。眠い」



………………。


最後の眠いってさ、副作用だよね。



「眠いの?辛い?」



「あれだけ派手に動けば、ボロボロになるっしょ」



「その分カッコ良かったよ」



「………………お前何か食ったのか?拾い食いしたか?」



たまに褒めるとこうなるのか。


戸惑いを与えるつもりなかったのに。



「完全に治す前にアメリカに連れて行かれるのね」



「だな」



「暫く会えないわね」



「………………だな」



「辛い時に申し訳ないけど起きてくれてありがとう。アメリカに行く前に話はしておきたかったから」



瞼が重そうだし、本当に眠いんだろうなぁ。


お父さんとの押し合いで体力使っただろうし。



「そうか。俺も会いたかった。あれから一度も会わずに行くのは嫌だったし。風間のアホは来やがったのに。しかも、タイミングバッチリだった。野郎に会っても嬉しくねぇし。一番会いたい奴に会えないのは辛すぎる」



そうだった。


風間も来たんだっけ。


亜紀の様子から凄くガッカリしたのだろうと分かった。

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