第414話

「まぁ、紙にたくさん書いてる。でも、作ってはない」



「どれか一つでもいいから作ってみなよ。紙に書いてるだけじゃ進まないから。納得したヤツをいざ作ってみたらイマイチだったこと結構あるからね。頭の中ではイメージできてるのに失敗するんだよね。不思議だ。これ、絶対にないって思っていたものがウケたりする。お客様が求めているものと自分が求めていたものが合ってなかったってことなんだけど」



自己満足しちゃダメってことだよね。


試食会とかやってみないと。



「お父さんが今まで作ったものは他の人に食べてもらっていた?」



「もちろん。凛も食べていたでしょ?でも、その時は試作品とは言ってないけど。普通に夕食とか朝食に出していたからね」



「気づかないものもあったと思う」



「だね。実は結構出してる。麻矢は分かりやすいよ。顔にすぐ出るから」



何も言わないで出すって考えはなかった。



「光さんは?自分の舌だけですか?」



「俺も他の人に食べてもらっている。嫁とか友人とか。それで修正はする。試作品までの道のりがなぁ………………長いんだよなぁ。まずは自分で色々試すだろ?腹がいっぱいになる。んで、太る。甘いもんだと太る速度が速いぞ。程よい運動を進める」



体重が増えるのは体験している。


そして、急激な痩せ方も体験している。


あれくらい体を動かさなければカロリーは消費しないというわけだ。


だが、あれほどの運動をこれからも続けようとは思っていない。


というか無理だろう。


体術はあれで最後だと思いたいし。



「ジムに行きたいなら行ってもいいよ。高校みたいに体育があるわけじゃないからね。体力勝負のところあるから。急に運動をやめるのもねぇ………………あまりいいことじゃないし」



ジムか。


行く時間ないよね。


お父さんはなぜ太らないのだろうか?


光さんも太ってないし。


仕事が終わったら真っ直ぐ家に帰って来てるよね?



「お父さんは太らない体質なの?」



「普通に太るよ。でも、日常で動いてるからね」



「日常だけでは運動にならないのでは?」



「裏の件も含むよ」



あぁ、裏ね。


………………。


お父さんっていつ裏の仕事をしているのかイマイチ分からない。


それはお父さんにとって望ましいことではあるけど。



「ジムに行くの面倒だし、運動着とか靴とか準備するのも面倒。でも、博さんのおかげで痩せた」



肉割れができているかもしれないけど。



「別にお金払ってジムに行かなくてもいいんじゃね?貸してやれば良いじゃん。共有場所」



蓮さんがスプーンをこちらに向けながら言った。


貸す?


共有場所?


それって………………


なんか怪しいよね。


裏の人たちが使っている場所じゃなくて?



「それは無理だ。あんな場所に凛を行かせるわけないでしょ。お前らはいいけど凛は表なんだよ。殺伐としたところに放り込むわけにはいかない。訓練所になんで運動不足だからって通わせるのさ」



「色々マシンあるし。筋肉つけるのも大事だなって。ただ、運動しただけじゃ筋肉はつかないから。大人になるともっと運動しなくなるからさ。今から癖をツケとかないと」



「だからさ………………そうじゃなくてさ」



やはり、裏の人たち用の場所だな。


蓮さんはその場所を使えばいいじゃんと言ってるらしい。


いいよって言われても嫌だと断るけど。


色々飛び交っているかもしれない。



「家庭用のマシンを買えよ。健康器具売ってるだろ。あとな、今は動画だ。動画を見て体を動かす」



光さんの言うとおりだ。


本格的なジムに行かなくても。


家でも普通の運動ならできる。



「ねぇ?檜佐木君、起きたみたい。意識があまりハッキリしてないけど。まだ眠そう。なんで起きれたんだろ?」



愁さんはいつの間にか亜紀の横に立っていて、顔を覗き込んでいた。



「愁。顔が近いよ。もっと離れて。距離感おかしいから。それはキスをする距離だよ」



孝文さんは愁さんの肩を掴んで引き離す。

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