第413話

入ってすぐに飛び込んできたのは饅頭を食べている蓮さんと愁さんだった。


なんか、とても大きい饅頭だな。


あんなの売っているんだね。



「凛ちゃんだッ!元気そうじゃん!あっ?この饅頭が気になる?これね、店の奴らが持ってきてくれたんだ。めちゃくちゃあるから食べて。饅頭には茶だよなぁ。お茶あるよ。あったかいのがいい?冷たいのがいい?緑茶以外もあるけど。この饅頭デカイからさ、半分に割って食べるといいよ」



やはり、蓮さんはよく喋る。


怪我をしているのに元気だ。


愁さんは何も喋らず頷くだけだ。


饅頭を食べるだけでいっぱいなのかもしれない。



「凛。足の調子はどうなの?」



お父さんはベッドに座って本を開いていた。



「大丈夫。お父さんは?」



「こっちも問題ないよ」



「これ、差し入れ。病院の人たちの分もあるから。博さんが買ってくれたの」



「そっか。ありがとう」



箱をテーブルに上に乗せる。



「俺は、病院の人たちに渡しておくから凛ちゃんはゆっくりしててね」



博さんは箱からゼリーを取り出し病室から出た。


へ〜ぇ、10個単位で段分けしていたのか。


それなら持ち運びしやすい。



「うわっ、なんか派手なゼリーだな。これはあれだな。見栄えがいい。カラフルじゃん」



蓮さんが箱を覗き込んだ。



「好きなのどうぞ。ぞれぞれ味が違いますから。どんな味なのか分かりませんけど。セットで買ったので」



「んじゃ、これもーらい。愁は………………これでいいか」



いや、選ばせてあげてください。


蓮さんは自分の分と愁さんの分を持ってベッドに戻る。



「お前ら、饅頭食べてゼリーも食うのか?甘いもんばっかだな」



光さんは呆れながら2人を見ている。



「いいのでは?何か食べてもらっていると静かですから。静かな時間がすごく欲しいです」



孝文さんはなぜか遠い目をしている。


疲れていらっしゃるようだ。


お父さんたちは元気そうだけど、1人静かな人がいる。


いつもなら騒ぐはずなんだけど。



「亜紀は?」



「あぁ、薬が効いているはずだからね。眠っているよ。回復には眠ることが一番だからね」



「そっか」



亜紀はぐっすり眠っているようだ。


薬の副作用なのかもしれない。



「凛が来ていたなんて知ったら残念がるだろうな。後で動画でも撮っておくか。面白そうだ」



光さんはクスクスと笑う。



「凛に会う前に大事なのは体だからね。早く回復してくれないと。いつまでもベッドの上じゃ体に悪いから」



お父さんの言うとおりではあるけど。


今の亜紀を見ると回復には時間が掛かると思う。



「亜紀君は完全回復する前にアメリカに連れて行かれるらしいよ。あっちで本格的に治療することになる。移動に耐えられる体力があれば問題ないし。だから、今日が最後だと思っておいて。凛もそろそろ夏休みが終わりだからね。勉学に集中しないと。みんなに置いて行かれちゃうよ?」



今日で最後なら起きていてくれたら良かったのに。


無理矢理起こすわけにもいかないし。



「いいなぁ。凛ちゃんは。夏休みがあって。俺も夏休み欲しいなぁ。愁もそう思わない?頑張ったご褒美に夏休み欲しいよな?綺麗な海でバカンスとか行ってみたいよなぁ。いいホテルに泊まるとか」



蓮さんは愁さんに同意を求めたがピンと来なかったのか頭を傾げるだけだった。


夏休みという長期休暇はいらないらしい。



「おい、凛。ちゃんと考えているか?どんなもんにするのか。うちの店は常連客が多いからな。味だけじゃなくて見た目にもうるさい」



うっ、そうだよね。


気になるよね。


でもさ………………



「なんか遠い目をしてないか?何も思いついてないのか?お〜い、しっかりしろ」



「光。プレッシャーはやめてあげてよ。何も出なくなるから。最初はなんでもいいから書けばいいの。んで、兎に角作る!簡単に成功するわけないじゃん」



まぁ、作るのはいい。


処理班が必要になるけど。


真理亜に手伝ってもらわないと。

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