第412話

別荘から出て車に乗り込む。



「なんか、もの凄い笑顔だったんですけど」



「ん〜、きっと凛ちゃんが帰るのが嬉しかったんだろうねぇ。見張りが増えたら嫌だろうし。一分一秒でも一緒にいたいんじゃないかな?」



「執着凄い」



「今はそうだよね。今はね。落ち着くと大丈夫だから。ただ、海の落ち着くのがどれくらいなのかちょっとね。俺や誠也と違うからなぁ。海も幸せになれそうで良かったよ。諦めていたら喜一のところと変わらないだろうし。誠也のところにいるんだからさ。暮らしの変化に慣れてもらわないと困るよね」



「急な変化の対応に困るのでは?」



「う〜ん、凛ちゃんとなら少しずつだと思うけど。海だから。またちょっと違うかなって。あっ、手土産でも買って行こうか?」



博さんはプリンがいいかな?ゼリーかな?と海のことはもういいらしい。


過ぎ去ったことはしょうがないと言いたいのかもしれない。



「ゼリーならカラフルなものがいいです」



「なんで?」



「可愛いから」



「凛ちゃんのを買うわけじゃないからね?お見舞い品だからね。おじさん達に可愛いゼリーをあげるの?」



「おじさん達でも可愛いゼリーは食べます。博さんも食べますよね?」



「それは、俺もおじさんですってことになる?」



「………………」



そうですって言われたいのだろうか?


そう言った場合は違うと言うのだろう。



「凛ちゃん。何も喋らないのはやめてよ」



「今、傷付かないように言葉を選んでますのでお待ちください」



「いえ、もうさ!それはおじさんって言ってるようなもんだよ!!」



「は〜ぁ」



「ため息やめて」



博さんから言い出したのに。


ゼリーはどうなのか?と言ったのにちゃんとお店に寄ってくれた。


しかも、ゼリー専門店らしく種類も豊富だ。


何層にもなっているゼリーが何種類もあって迷う。



「博さんはこの店に来たことあるんですか?それとも通っていたから?」



「お店の子に頼まれたことが何度かあるんだよ。お客さんから聞いて食べたいって言ってきてさ。仕事の帰りに買ったことがある」



春さんが食べたいとかじゃなかったか。


でも、お店の人から頼まれたなら美味しいのだろう。


口コミって大事。


さて、どれにしようかな。


ゼリーの中にハートがある。


いちごのゼリーらしい。



「どれも可愛いですね」



「セット売りもしてるよ。10個入りとか」



「あっ、セット売りいいですね」



「んじゃ、セットでいい?」



「はい」



セットならいろんな味が入ってるからいいだろう。


5個入りとか10個入りとか15個入りとか選べるらしい。


人数的に10個だろうな。



「すみません。30個入りのやついいですか?」



ん?


思わず博さんを二度見してしまった。


今、30個って言わなかった?



「かしこまりました」



えっ?


あるの?


店員さんは普通に冷蔵庫から箱を取り出す。



「30個もですか?」



「うん。先生と看護師さんとかさ。アイツらの面倒を見てもらっているから差し入れしてあげなきゃね」



なるほど。


病院の方々にか。



「そんなにお金持ってないです」



「凛ちゃんに払わせるつもりないけど」



博さんはそう言ってカードで支払った。


そしてゼリーが入った箱を私に渡した。


30個も入っているからずっしりと重い。


その箱を持ってまた車に乗り込む。



「ありがとうございます」



「どういたしまして」



病院に着いてロビーに入ると前と同じように静かだった。


今日はお休み?



「凛ちゃん。こっちだよ」



手招きをされながら進む。


病室は3階の一番奥だった。


博さんはノックもしないでドアを開けた。



「ヤッホー。元気にしてる?おっ、元気そうだね。顔色いいじゃん。あれ?なんか食べてる?何々?差し入れでもあった?」



軽いノリで入っていいのだろうか?



「ほれ、娘さんを連れてきたよ」



手招きする博さんを見ながら病室に入る。

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