第410話

急に冷静になり、一旦部屋の前から離れてリビングに行く。


そして、ソファーに倒れるように座る。


なんだか疲れてしまった。



「凛ちゃ〜ん。何か飲む?コーヒー?お茶?ココア?白湯でもいいよ」



「では、お茶でお願いします」



「はいはい」



博さんはドアを開けて顔だけ出して誰かに伝えた。


伝え終えたあとは1人用のソファーに座る。



「びっくりだよねー。あれでも仕事はしっかりやっているんだよ。あれでも。仕事が終わった後は部屋に閉じ籠るけど。夏休みも残り少ないし」



巣篭もりじゃないんだから。


そうなると、大塚さんは外に出てないのだろうか?


………………軟禁みたいになってるわけじゃないよね?



「博さん。大塚さんは外に出てますか?」



「う〜ん。外出禁止にはなっていないけど。体力の問題でね。可哀想にねぇ。海は体力あり過ぎるからさ」



「抱き潰されて外出する体力もないってことか。計算じゃないですよね?」



「計算とかじゃないと思うよ。足りないものを補う感じじゃないかな?」



栄養補給じゃないんだから。



「お茶とお菓子をお持ちしました」



ワゴンを押しながら入ってきたのは佐々木さんだった。


テーブルにお茶とお菓子をテキパキと置いていく。



「本日はシュークリームになります。こちらのクッキーもよろしければどうぞ」



「ありがとうございます」



うわっ、前より上手くなってる。


佐々木さんは毎日作っているのだろうか?



「美味そう。凛ちゃん、よかったねぇ。好きなだけ食べられるよ。2人は部屋から出て来ないし。たくさん食べて」



確かに、量が多いと思ったけど。


パクッと一口食べる。


うん、普通に店に出してもいいと思う。



「美味しいです。凄く」



「それは良かったです。では、私はこれで失礼します」



佐々木さんが出ると博さんがシュークリームを1つ2つと食べ出す。


あっ、この調子なら無くなるかも。



「博さん。太りましたね」



私の言葉で博さんの動きが止まった。



「そういうことは思っても言わないもんなの」



「………………ごめんなさい。でも、ちょっとふっくらしてきたような」



「だから言わないで。俺も分かっているからさ。運動する暇がなくて」



「部下を鍛えるだけでいい運動になると思いますけど」



「怠い。春はこのくらいが丁度いいって」



丁度いいか。


春さんのそれは「あ〜っ、うん。そのくらいがいいよ。うん。いい」みたいな感じだろう。


あまり深く考えてない言い方。


太っているわけではないが、完璧に引き締まった体でもない。


博さんの仕事に差し支えなければいいけど。


まぁ、そこは私が考えてもしょうがない。


幸せ太りということで。


シュークリームを食べ、お茶を飲み、テレビを見て寛ぐこと2時間ほど。


やっと大塚さんと海がやってきた。



「嬢ちゃん!元気やったん?知らせはきとーよ。リハビリしとるって聞いてるっちゃね」



なんだろう。


海の独特な言葉遣いが久々に感じる。



「海、大塚さんをなぜ抱えているわけ?」



「あ〜、立てないんよ」



「………………手加減しろよ。そんなになるまでするな。それじゃ、話も出来ないでしょ」



「うん?なん?俺にすればええと思うっちゃよ?」



海に聞いたところで真面なことが聞けないでしょう?


あなた、裏なんだし。


ここは大塚さんに聞くべきだと思うけど。


なんか、ニコニコ顔の海を張り倒したくなる。


顔面殴っていいかしら?



「あれ?嬢ちゃん?なんか、拳に力が入ってん?えっ?なんか、怖い顔しとるんよ」



「鼻血が出るまで殴りたい衝動を堪えてるから黙って」



「怖っ!!!」



海は大塚さんを抱っこしたまま椅子に座った。


なんだか、大塚さんが可哀想だな。


グッタリしてるし。


眠い、眠い、眠い、眠い………………


それしか感じられない。


会話は出来るかしら?


う〜ん、無理そうだよね。


半分寝てるし。


真剣な話はこの状況で話すべきではないな。


海を見るとまだニコニコだ。


やっぱり、一度殴るか?


もの凄く殴りたい感情が湧き出てくる。

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