第408話

真理亜の食欲にこれほど感謝したことはない。


どれも美味しいと食べてくれるし、捨てるものが出ないから良かった。


最後のデザートとしてホールケーキが出た時は呆れてしまった。


これはしっかりお父さんに報告しなければ。



「ふ〜ぅ、まさか、もう一回こんなに食べられるとは思わなかった。いや〜、退院おめでとう!!」



「退院より食よね?真理亜の場合」



「そんなことないって!」



もう正直でいいよ。



「真理亜ちゃん、泊まっていく?もう遅いから」



「はい!着替えも持って来ました」



「あらぁ、凄く準備がいい。さすが真理亜ちゃん」



帰りが遅くなるって分かっていたはずだ。


人手不足で真理亜の送り迎えも負担だろうし。


泊まっていくのがいろいろ助かるけど。


まさか、その辺の事情が分かっていたわけではないよね?


夕飯の時間が終わると早めにお風呂に入った。


そして、ソファーに座ってテレビを見る。


なんだか、久しぶりに見るような感覚だな。



「あっ、このモデル結婚したんだよ。相手はアナウンサーだって」



「へ〜ぇ。そうなんだ」



芸能関係は興味がないから、この人がモデルだということを知らなかった。


短大でアイドルの話で盛り上がっていた時、私はよく知らないから会話に混ざれなかった。


この人は絶対に知ってるでしょ?という人も知らなかった。


テレビをあまり見ないだけでなく、SNSなどもあまり見ない。


情報を自分から探していないのだから知らなくて当然だろう。



「この人は?何をやってる人?」



「えっと、俳優。今度映画の主演をするって」



「この人は?」



「芸人だね。最近よく出るねぇ。若い子に人気なんだよ」



「真理亜は詳しいね」



「そんなことないけど。芸能ニュースとかでやってるよ」



芸能ニュースは見てないな。


別のニュースは見てるけど。



「あっ、この人は知ってる。浮気をして泣いて謝ったけど許してくれなくて、酒をたくさん飲んで道路の真ん中で寝ちゃった人。それで、嫁を余計に怒らせてしまった。それでも、離婚はしたくないから泣き縋ったらしいけど。それから、カッコいい路線からダメ男路線に変更したんだよね?」



「凛ちゃん。詳しいじゃん!」



「たまたまテレビをつけたらやってたの。泣き縋る男の姿がおかしくて。みっともないのに、どこか潔い」



「いや、潔くはないよね。あれ、かなり酷かったんだよ。何股してんだよ!ってくらい。いろんな人から私が浮気相手です!って名乗ってくるし。クズだね」



「あの執着は凄いと思う。離婚がそんなに嫌だったのね」



「そうらしいね。今だに許してないらしいよ。友達とご飯に行ってくるね!今、ご飯に着いたよ!相手は誰々だよ!写真も送るね!とか、メッセージを送るんだって。でもね、既読にならないって。家に帰ったら寝室じゃない部屋で寝てたって。どこに行こうが構わない、というか離婚してって言われてるらしいよ。お嫁さんは一般人だからさ。テレビに出ないし。詳細は不明だよね」



離婚したい嫁と離婚したくない旦那。


ずっとあのままではないと思うけど、どっちが折れるのだろうか?



「真理亜はあの2人のどっちが先に折れると思う?」



「え〜、旦那じゃない?女性は強いからさ。離婚するっしょ」



「そう、私は嫁ね。あの男の執着は異常性が強いから」



「なんだろう。凛ちゃんが言うとそうだなって思う」



あれは束縛………………


閉じ込めに近い。


なんだか、身近にそんな人がいそうな。


そんな感じだ。



「あっ、このドラマ人気なんだよ。俳優さんが凄く可愛いって」



「最近始まったの?」



「もう最終回に近い」



今から見ても意味が分からないか。



「ミンエイさんが教えてくれたんだ。人気だって」



ん?


まさかの名前が出た。


あの人、ドラマを見るの?


へ〜ぇ、意外だ。



「ドラマ見るのね」



「だねぇ。見るんだねぇ。色々見るらしいよ」



短い期間ではあるがそれなりに会話をしているらしい。


良かったのか?

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