第405話

『風間の件は一旦置いといて、凛にはやってもらいたいことがあるんだけど。忘れてないよね?前に光の店で話したこと』



光さんのお店で話したこと?


えっと………………



『あれ?もしかして忘れてる?ダメじゃんか。やるって言ったんだから覚えておかないと。まぁ、色々あったからなぁ。忘れちゃうのはしょうがないか。考えている余裕も時間もなかったし。光がお店を長らく閉めたままだったから新メニューを出しておきたいって』



あっ、そういえばデザートでお父さんと一緒に考えるんだった。


完全に抜けてたなぁ。



「ごめんなさい。すっかり抜けてた」



『だよね。学校みたいにテーマを決めるようなことはしない。凛がチャレンジしたいものでもいいし、今の流行りに合わせたものでもいい』



幅広い選択をもらえるのは嬉しいけど、それって難しい。


旬のものって言ってもらえれば楽だったけど。



「お値段はいくらくらいで?1000円くらい?」



『自分で行動する。光のお店に行って調査したり。お手伝いしたり。お店の雰囲気を感じるのも大事だよ。光が考えたメニューがどんなものなのか見たり。感じたことを俺に教えて』



お父さんと一緒に作ると言っても、アドバイスをする程度。


じゃないと私の成長にはならない。



「分かった」



『先輩従業員もいるからね。常連さんのことも把握してるだろうし』



先輩従業員って海のことだよね。



「………………アルバイトするってこと?」



『まぁ、そうなるよね。光も従業員が増えて喜んでいるよ。海だけじゃねぇ。アレだよねぇ。彼も頑張ってはいるんだけど』



別にアルバイトが嫌というわけではない。


だが、海と違って私は無愛想に見えるから。


クレームが入ってしまうかもしれない。



「私、接客には向かないけど」



『学校の菓子店でやってるでしょ。博が言ってたよ。まだぎこちないけどちゃんとやれてるって。飲食店の接客でもっと早く慣れるはずだから。頻繁に行ってとは言ってないからね。学業優先だから。疎かにしたらあっという間に成績落ちおるよ』



「それは大丈夫」



『ずっとベッドに上にいたら暇だろうし。今からでも何か考えておいて』



お父さんの電話が終わりスマホをミンエイさんに返す。


どうしようかな。


光さんのお店のメニューは何があったっけ?


同じようなものは作っちゃダメだと思うし。



「凛ちゃん、メニューの開発するの!?」



「うん、前に決めてたことで。今回の件があったから忘れていたけど。確かに、今は時間があるから」



「ふ〜ん。やることたくさんだね。でも、いっぱいあるとあっという間だよね」



「早く退院しなきゃ」



「焦らない焦らない。逃げたりしないって」



確かにそうだけど。


目標があると楽しくなりそうで。


病院にいては出来ることは限られているから。


早く日常生活に戻りたい。



「凛ちゃん。楽しそうだね。うん、良かった!元気そうな凛ちゃんのことも見られたり、そろそろ帰るね」



「あぁ、うん。気をつけて帰ってね」



「うん!帰りにドーナツ買ってから帰る」



また食べるのか。


あれだけ食べたのに。


あの量は体のどこにいってしまったのかな。


真理亜たちが帰ると病室は静かになってしまった。


窓の外を見ると雨が降っていた。


さっきまで天気が良かったのに。


次の日の夕方。


ここには来ないと思っていた人がきた。



「怪我はどうしたの?私以上にヤバかったはずなのに。化け物並みの回復力なの?」



「失礼なこと言わないでよ。痛みに鈍いだけ。いつまでも休んでいられるわけないでしょ。組織がグダグダだし。早く動かないと潰れるからね」



休息する暇もないってことか。


私の目の前にいる柚月からは大怪我をしているようには見えなかった。


我慢をしている感じにも見えないし。



「私の様子を見に来たの?」



「それ以外なにがあるって?足の怪我がどうなったのか本人に聞いたほうが早いと思ったから」



「すぐに歩けるというわけじゃないけど。リハビリをすれば大丈夫」



「ふ〜ん。リハビリねぇ」



柚月はテーブルの上を見る。


そこにはデザートの構成がいくつも書かれているノートがある。


思いつくものをただ書いているだけだが、それでも楽しい気分になる。

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