京都研修
第71話
その日の朝はいつもと違った。
バスに乗り込む時に黒猫が横切ったり、事故が発生して途中で高速を降りて一般道で走ったり、学校の目の前はバイク事故現場だったり、教室に入ると先生は親が救急車に運ばれたので自主学習の時間になっていたり。
不吉なことばかりだった。
こんなに悪いことが起こるということはもっと不吉なことが起きるかもしれない。
お昼の時間になりいつも通り中庭でご飯を食べようとお弁当を開いた。
あれ?
おかずがない。
………………。
ご飯だけだ。
段数が一つないということは、入れ忘れてしまったということだ。
忙しい朝の時間を思い出して見ると、徹夜で仕事をしていたお父さんが眠さと戦いながらお弁当を作っていたっけ。
きっと頭の中がボーッとしていたんだな。
「なぜ白ごはんだけ?えっ?なんで?」
大塚さんが私のお弁当を見て疑問だらけのようだ。
「うん。おかず忘れた」
「えっ!?普通忘れる?箸とか忘れるけど、おかずを忘れる人なんて初めてだよ」
「私も初めてだよ」
さて、ご飯だけだとお腹が空いてしまう。
「食堂で何か買う?食堂で食べる?」
「………………そうだね。ごめんね」
「いいよ。おかずだけのメニューあったから」
食べ始めて大塚さんには悪いけど、中庭から出て食堂に向かった。
いつも通りの混雑といつも通りの賑やかさ。
大塚さんには席を確保してもらって私は食券でハンバーグのみを買って列に並ぶ。
料理を受け取って大塚さんが確保した席に座った。
「お待たせしました。待っててくれたの?」
「うん。一緒に食べようと思ってね」
「ありがとう」
先に食べてても良かったのに。
いい人だ。
「普通のハンバーグにしたんだ?」
「うん。値段も安いし」
ハンバーグに箸を入れると肉汁が溢れた。
「ねぇ?なんか、最近周りがうるさいと思わない?イライラしてるっていうか。今日もそうだし」
「そうだね。主に日向の周りにいる人達が」
取り合いをしている雰囲気だ。
ファンクラブの中で何かが起こっているようだ。
「なんか、あったのかね?目がヤバかったから。あぁ、そういえば、私見ちゃったんだよね」
「何を?」
「日向君が複数の女の人を相手にしているところ。友達とカラオケに行った帰りにね」
「相手?」
「あーっ、なんて言うかレイプ的な?」
「………………」
「あれ?椎名さん?なんか、目が冷たいよ。いや、私がしてたわけじゃないから!」
「分かってるよ。凄いところを見ちゃったのね。可哀想に。目が穢れてしまうかも」
「私の目はもう駄目なの?えっ?」
「どこで見たの?みんなが通る道の真ん中で?」
「道の真ん中はありえないから!トイレだよ。公衆トイレ。友達がトイレに行きたいって言うから、公園のトイレに入ったらそんなことになってたの。びっくりしたよ。女子トイレに男がいて複数の女がいて。女が男を襲っている場面だからね。全力で見てないフリをしてトイレから出たけどさ。なんか………………本当に見ちゃいけないものを見ちゃった感じ。前に聞いたことがあるんだけどさ。日向君は簡単にヤらせてくれるって。あれは本当かもね」
崩れ始めている。
これからもっと崩れるだろう。
制御できない組織は崩れるだけだ。
あの会長では制御しきれないだろうな。
簡単に自滅しそうだ。
お昼の時間が終わり午後の授業も何事もなく終わった。
今日はこれ以上何事もなく終わりかな。
きっと、偶然だろう。
サークルに行くと何やら京都の話で盛り上がっていた。
「椎名さん!椎名さんも京都に行くんだね」
はい?
橋本先輩がニコニコと笑顔でそんなことを言う。
どこに誰が行くって?
えっ?
「椎名さん。宿泊施設はどうする?こっちで決めちゃっていいかな?」
私、行くって言った?
そもそも、お父さんにも京都の話は言ってないのに。
どうしてそんなことになっているの?
「橋本先輩。その京都行きは誰が?」
「えっ?」
「………………」
「えっ!?ちょっと待って!」
いや、こっちがちょっと待ってだ。
「もしかして、椎名さんは京都に行かないとか?」
「はい。私、行くなんて言ってませんけど」
「えーっ」
だから、私がえーっと言いたい。
「日向君が椎名さんも行くって言うから。椎名さんの分も予約しちゃったよ。もう、取り消し不可なんだよねぇ」
「………………」
はぁ?
日向だと?
「椎名さん?あの、その………………目が怖いよ」
あの野郎は何をしたいの?
勝手に参加すると言いやがって。
私が参加するなんて言ってないのに。
こんなこと………………
今日の不吉はコレだったか。
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