第70話

お茶を飲みながらテレビを見ていたところ、海のところに雪が来た。


正座で海の近くに座り何かを言いたそうにしている。


チラッと後ろを見るとお父さんと光さんはお酒を飲みながら何を話していた。


もう、雪のことは済んだのだろうか?



「なんね?はよー言えっちゃ。怒らんよ?言ってみーな」



海に言われて雪は俯いていた顔をあげる。



「びっくりしました。海さんはいち君から離れないって思っていたので。だから、ここにいるのが信じられないくらい驚いてます。聞きました。なんでここにいるのか」



「そっかぁ」



海はお酒を飲みながら雪の話を聞いている。



「いち君の全てを知ってるわけじゃないですけど、海さんはいち君の中でそれなりに特別な存在だったと思います」



「ん〜?」



「だから………………あの、その………………いち君が心配になって会いに行ったんです。表面はいつも通りのいち君だったんですけど」



「で?」



「海さんは今のいち君のこと調べたりしてないって」



「してないわなぁ。今は嬢ちゃんのことで忙しいっちゃ。前の職場を調べてもどーにもならん」



「多分、いち君は死にますよ。今のままだと。いち君と海さんの関係って一言で言えないことくらい知ってます。本当にいいんですか?」



えっ?


死ぬ?



「坊ちゃん。あんなぁ?そのくらい知っとる。ずっと壱夜の下で働いてたんよ?死ぬかもしれんっていつものことや。いや、今まで生きていられたことが奇跡か?ずっと前に死んでいたかもしれん。壱夜を育てたのは喜一や。幸せな終末なんてあると思うか?壱夜だって覚悟しとる。あの男は死ぬことに対して恐怖心はないからなぁ。ただ、利益がない死に方はしないんよ。無駄死になんて考えてない。そーいう男や。俺がどーこー言うつもりもない。壱夜は望んでないからなぁ」



「そういうことを言っているんじゃなくて!今回の件はいつものとは違うっていうか」



「坊ちゃん。そこら辺にしとき。もう、俺は戻らんよ」



海は雪の頭を軽く叩いた。


そして、立ち上がりリビングから出て行った。


きっと、家から出て行くのだろう。



「おい、駄犬」



「駄犬じゃないよ」



「柚月は諦めろ。止まることなんてしねーだろ。目的が見えているなら突き進むだけだ。側近がいなくなったくらいで堕ちる奴でもない。雪、忘れるなよ。裏は毎日たくさんの人が死んでる。いつも死と隣り合わせだ。覚悟が足りなかったお前には辛いかもしれないがな。裏は裏のやり方がある。お前はそれなりの関係でいろよ。じゃねーと、白井から離れてもらうぞ。大人しく、表面だけ見てろよ。何か分かっても、な」



亜紀も立ち上がりリビングから出て行った。


仕事の時間だからだろう。


残された雪は眉間に皺を寄せていた。



「駄犬」



真理亜は自分の隣をポンポンと叩く。


それは、隣に座れと言っているようだ。


雪はそれに気づいて真理亜の隣に座る。



「凛ちゃん達がダメって言うならダメなんだよ。馬鹿。どうにもならない時だってあるの。馬鹿」



真理亜はペシペシと雪の背中を軽く叩く。


雪は柚月のことがどうしても気になるらしい。


今でも繋がりがあるのは雪だけらしいし。


海からも亜紀からも諦めろと言われたのに、本人はこの調子だ。


きっと、お父さんも光さんも雪のことがチラついたのだろう。


真理亜のストーカーでもある雪が何やら柚月の周りをウロウロしているぞって。


もしかしら、それが悪い方向に向かうかもしれないって。


お父さんも光さんも柚月と喜一の間だけで揉めて欲しいって考えるかもしれないし。


本当に利用価値が少しでもあると裏って利用するからなぁ。



「本当に馬鹿だな。何か危ないことが起こってからじゃ遅いのに」



「僕のこと心配してくれてるの?」



「駄犬じゃないよ。私の心配だよ。巻き込まれたら大変だもん」



「………………」



真理亜。


あなた、本当に鋭くなったよ。


学園卒業してもその察知能力は劣らないのね。


もう、自分のスキルになっちゃった?


若干、雪も引いてるかも。


自分の心配してくれてると思ったのに、別のことだったもんね。


でも、真理亜はちゃんと先のことを考えていたことになるし。


もう、守られているばかりの頃とは違う。


自分で考えて行動できるかもしれない。


………………。



「真理亜。少しでもいいから僕の心配してよ!!」



「はいはーい。心配でした。これでいい?」



「そんなんじゃ嫌だよ!!」



………………。


なんだか、雪が可哀想だ。


ストーカーに対して可哀想とか思うべきじゃないと思うけど。


これは、可哀想だなって思う。

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