私の居場所⑥

第64話

「なんでなの。最近、多いから困る。こんなに多いなんて忙しくてどうにかなりそう。日向君とゆっくり出来る時間がないじゃん。前は一緒にお茶を飲んだり、一緒に散歩したり、一緒に映画見たいりしてたのに。なんで、こんなに邪魔者が多いの？なんで？勘違いした奴が多い。始末しても始末しても次から次へと出て来る」

そんなこと言われても困る。

海が少しだけ後押ししているらしいけど、実際動いているのは彼女達だからなぁ。

「おい、この女は何言ってるんだ？俺にはさっぱりだ。一緒ってなんだ？俺の一緒とあの女の一緒って同じ考えでいいのか？」

「いや、違う。多分、どれもストーカーしながらの一緒だと思うから」

「やっぱりそうか。なぁ？なんでストーカーって普通にしないんだ？好きです。付き合って下さいって言えばいいだろ」

「そこは知らない。アイドルと見つめる時と同じ？」

「それは違うだろ。アイドルとは別だ。夢の中にいる乙女の感覚か？まぁ、よろしくない乙女だな」

「で？」

「なんだ？」

「どうするの？」

「どうすっかなぁ」

痛めつけるわけにもいかないし。

でも、家まで来られるのも困る。

悪戯されるのもなぁ。

「本当に嫌だ。男と一緒にいるなんて。男がいるならなんで日向君と一緒にいるの？ねぇ？なんで？」

どうも、思考が繋がらない。

日向と一緒にいたことになっている。

「おいおい。どこでそうなった？つーか、凛はビッチじゃねぇよ！」

「亜紀！違う。そうじゃない。なんてこと言うの」

「んぁ？だって、あの女そう言ってるぞ。男がいるのに日向と一緒にいるって。あの女は間違ってる！ビッチだろ！それは、いろんな男と遊んでいるってことだろ？」

「………………」

いや、そういうことを言ってるわけでは………………

待てよ。

この女は普通じゃない。

それもあり得るか。

私、ビッチ扱いなの？

それは………………

海に伝わったら酷いことになりそうだ。

「はぁ？何言ってるの？男と一緒にいるのに。この前だって違う男と一緒にいたでしょ。今度はその男だし。いろんな男がいるってことは遊んでる証拠よ！そんな女、日向君の近くにいるなって許せない。危ない。排除しないと駄目だ。日向君の将来に傷をついてしまう」

「おーい。お前がしてることはどうなんだよ？日向に近づく女を全部排除するのは？そんで、日向に命令しているのは？」

「私は日向君ために動いているの。将来のことも考えてね。日向君は海外でも活躍するシェフになるんだから。そんな彼の邪魔になる物は排除してあげるの。日向君を理解できるのは私だけ。日向君だって人肌が恋しくなる時もあるでしょ。私だけが理解できるの」

「駄目だ。これは完全に駄目だ。んで？俺達をどうするんだ？」

「そんなの同じようにするだけ」

「ほう、同じようにか。なぁ？知ってるか？日向のブースの近くに女がいたぞ。その女、チラチラ日向のこと見てたなぁ。エプロン姿で可愛い女だったな。日向のその女のこと見てたぞ。あれは、恋が始まるかもな。同じ料理の道に進む若者だ。あの女は日向の父親の弟子か何かかもな。テレビで見たことある。いいのか？俺達とこんなことしてて。今、死角が出来るかもな。スタッフしか入れない休憩所で、とかな」

「なっ、そんなこと………………あり得ない。私の警備は完璧なのに」

「甘いな。恋は厳しい環境だと燃えるもんだぞ。日向はお前の警備の抜け穴くらい見つけられるだろ。ずっと一緒にいたんだろ？お前が日向を理解しているなら、日向だって同じだろうが」

亜紀の言葉を聞いた女の顔は次第に不安な顔へと変わっていった。

簡単だな。

強気な態度はどこにいったのか。

「お前の癖だって知ってるだろ。さりげなく一緒になれるように行動だって出来る。お似合いだと思うがな。弟子と息子だろ？お似合いだろ」

「ｱｯーーｱｯアッ！行かなきゃ。こんなこと。行かなきゃ」

女は後ろを振り返り急いで走り出した。

「おい！ちょっと待てよ！こいつらのことどうすんだよ！」

「戻るの！戻るの！早く戻るの！！！」

男達はこちらを気にしながらも女を追いかけて行った。

私はそれを冷めた目で見る。

やっぱ、アホだな。

「亜紀」

「なんだ？」

「可愛い人達だったね」

「だな。簡単に乗せられて。あれは、脆い組織だ。敵の言ったこと簡単に信じるとか可愛い奴らだ。さて、帰るか？」

「そうだね」

家に帰るために駐車場に戻った。

この件はちゃんと報告するか。

なんか、笑える報告になりそうだけど。