第63話
「お父さんの手伝いで来たわけじゃないから。今日はいろんな料理が見られるし食べられるから。だから来たの」
「デートだと言えよ。そこはデートだと言え」
「今日はそんなことしている感じではない。食べること見ることで楽しんでるから」
「嘘でもいいからデートだと言えよ。俺はデートだと思うけどな。親に内緒で来てるし。なんかいいよな。内緒ってなんかイケナイことしてるみたいじゃん」
「してない。何もしてない。悪いことはしてない。何を考えているんだか」
アホなこと考えるな。
「そっか。手伝いで来てるわけじゃないのか」
「うん」
「………………俺、手伝いがあるから」
「頑張って」
日向はブースのほうに行ってしまった。
「なぁ?俺って、無視されてね?」
「………………」
無視ね。
まぁ、確かに無視かもね。
亜紀のこと見てなかったし。
この目立つ亜紀が見えてなかった。
今でも周りの視線を感じる亜紀の存在が。
「アイツ、お前に惚れてるわけじゃねぇよな?」
「なぜ、それを私に聞くの?」
「ここに本人がいないからな。まぁ、そんな感じではないな。惚れてると言えば柚月だろ。あれは惚れてるレベルではなかったか。それ以上だな」
「次行くよ。時間もあと少しだから。お土産なくなる」
ここで日向に会ったからといって何かが起こるわけもなく亜紀と一緒にブースを見て回る。
珍しい食材を使った料理やらカラフルなスイーツやらタピオカを使ったスイーツやら。
創作料理に相応しい料理だ。
あとはお土産を見るだけだ。
お土産コーナーもたくさんの人でいっぱいだ。
人気なところは並んで買う。
あと何個でおしまいですっとスタッフの声が聞こえてくる。
気になった物を何個か買って、あとは帰るだけだなと出口に向かって歩く。
「家に着くのは夜になるね。夕ご飯どうする?食べる?」
「腹減ってるか?」
「全く。ずっと試食してたから」
「だよな。お前はそうだろうな」
「空いてるの?」
「軽く何か食う。サービスエリアでな」
「男の人ってみんなそうなのかな」
「違うだろ」
よく食べるとは思っていたけど。
駐車場に向かって歩いていると何やら後ろからおかしな気配を感じる。
なんだ?
もしかしたら、つけられているのか?
いつから?
「ねぇ?亜紀」
「なんだ?」
「いつから?」
「あーっ、日向に会った頃からだな。下手な尾行だ。素人だな。お前は、全く気づいてなかっただろ」
「別のことでいっぱいだった。周りの喧騒もあるけど」
「裏ではねぇよ。だから、そのままにしといたんだがぁ。そろそろウザイな」
多分、日向関係だろう。
そうなるとファンクラブの輩か。
本当に日向のことを見ているのか。
こんなところまで来て。
ずっと見張っていたわけね。
「しょうがねぇなぁ。相手してやるか。家までバレるわけにもいかないし。車の用意されてるかもしれないし」
亜紀は急に方向転換して目立たない方向に進む。
どうやら誘い出すつもりらしい。
後ろにいる奴も私達の後を追ってくるのが分かる。
会場から離れて人が少ないところに着くと亜紀が後ろを振り返った。
私も後ろ振り返った。
でも、そこには誰もいない。
「出て来いよ。つーか、尾行下手だな。もっと気配を消せ。呼吸が荒い。もう、呼吸するなよ。呼吸式が出来てねぇのに尾行するのか。やっぱ、素人だな」
いや、呼吸式って言われても。
普通は分からないから。
建物の影から出てきたのは女だった。
女は清楚な雰囲気だったが目が怒りでいっぱいだ。
私をギロッと睨み付けている。
「なんだよ。用事はなんだ?手短にしてくれ………………るわけないわな。酷い女だぜ。やる事が汚い」
建物の影から出てきたのは男5人。
なるほど。
「こんだけデカイ会場だからな。1人で見張るには限界があるだろ」
1人でストーカーしてればいいのに。
他の人を巻き込んで見張るのか。
「椎名さん。あなた、いったいどういうこと?何回も何回も日向君に声を掛けられちゃって!今日も何?なんなの?本当になんなの!!学校でも言ったけど日向君は私だけなの。理解できるのは私だけ!」
あぁ、この女は会長か。
ボサボサな髪じゃなかったから分からなかった。
ここまで変わるものなのか。
男5人に女1人ね。
チラッと亜紀を見るが怒っているようには見えない。
ただ、凄く怠そうだなと思う。
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