第60話

日曜日。


亜紀の強引な誘いによりどこかに連れ出された。


近場かと思ったら高速道路を走っている。


これ、今日中に帰れるよね?


っていうか眠い。


朝の4時に起こされて5時に出発とか………………


もう3時間も走ってるけど。



「亜紀。眠い」



「俺も眠い」



「亜紀は起きて。死ぬから。起きて」



「9時間寝たはずなんだけどなぁ」



「寝すぎだと思う。ねぇ?あとどのくらい?」



「あと、1時間くらいだな」



「どこに行くの?」



「着いてからのお楽しみだ」



本当に眠い。



「私、山とか海とかに行ける服装じゃないからね」



「そんなところに連れていくなら行く前に言うぞ。あ〜っ、水着だったら俺の選んだやつ着せるけどな」



「絶対に着ない」



「なんでだよ」



「際どいの持ってくるかもしれないから」



「願望で選ばねぇよ。ちゃんとしたやつ選ぶぞ。多分………………」



多分って何?


ちゃんとしたやつってどんなの?


亜紀のちゃんとしたやつって?



「お前のパパさんから朝のコールは来たのか?」



「電話じゃなくてメールが来たよ」



お父さんは昨日から泊まり掛けで仕事に行っている。


だから、昨日の夜は亜紀と猫3匹と一緒に過ごした。


お父さんがいない分、亜紀は今まで以上にのんびりと過ごしていた。


断りもなく冷蔵庫からお酒を取り出して飲んだり。



「昨日の夜も今日の朝も、過保護だな。いや、寂しくなるのか?うわぁ、マジか。俺の親はやらんぞ。そんなこと」



「………………」



そんなに引かなくてもいいと思うけど。



「さっきのメールに今日の夜に帰るって。深夜になるかもしれないから先に寝てねって。亜紀は?仕事あるの?昨日、なかったでしょ?」



「ない。休みだ休み!ずっと動いてると疲れるんだよ」



「そう」



忙しいのに休む時間はあるのか。


1時間が経過した頃、車は大きな会場に着いた。


駐車場はいっぱいで満車の看板ばかり。



「マジか。もういっぱいかよ!」



「近場はダメだね。ちょっと遠くだと空いているけど」



「というか、そっちに行けって案内されてるしな」



警備員の人に案内され会場から少し離れた駐車場になんとか止められた。


ここもあと少しで満車になるだろうな。


車から降りて人の流れに沿って歩く。



「ねぇ?ここって何?」



「もう少しで見えるぞ」



「何が?」



「看板が」



看板?


正面側が見えると大きな看板も見えた。


そこには創作料理展覧会と書かれていた。



「創作料理展覧会?」



「中でちゃんと食えるぞ。入場料の中に含まれてる」



「あれに並ぶの?」



「当たり前だろ」



受付のところには凄い行列が出来ていた。


これ、会場に入るのにどのくらいの時間が掛かるのかな?


でも、創作料理か………………


亜紀はこれをどこで知ったのかな?


好きな人じゃないとこういうイベントは分からないものだし。



「亜紀、どこでこのこと知ったの?」



「頼まれた届け先で知った。つーか、ポスターを見た。たまたま、だ。そこになぁ、聞いたことのある名前があってな。お前も料理の道を進むなら見たほうがいいかもなって。つーか、見ておけよ。自分の父親の仕事している姿。母親だけじゃなくて」



えっ?


父親?



「まさか、お父さんがいるの?この会場に?」



「そうだ」



「………………」



「今日のこと言ってなかっただろ?」



「みんなの前で料理をする仕事だって言ってた」



「まぁ、嘘じゃねぇな。みんなの前で料理はするわな。ライブキッチン的な?出来立てが食えるとか凄いよな。テレビに出てる奴の料理が食えるとか、そんなことあまりないだろ?他にもいろんな有名シェフが参加してるぞ。あと、お前と俺がここに来ること言ってねぇからな。内緒だ。内緒だと面白いだろ。まぁ、この客数だから見つけられるわけねぇけど。見つけてもらえるように前に突っ込むか?びっくりして失敗するかもな」



「………………」



そっか。


お父さんの仕事の姿を見られるんだ。


そっか………………



「おい。凛?」



「あっ」



「あっ?」



「ありがとう」



「………………おう」



私は凄く嬉しくて顔が綻んだ。


そんな私を見て亜紀は顔を真っ赤にしていた。



「私、凄く嬉しい」



「そっか。お前が喜んでくれて良かった」



真っ先に、お父さんのブースに行こう。


そして、ちゃんと見よう。


こんな機会は滅多にないのだから。

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