第59話
会社に着くと凄く暗いオーラが漂っていた。
廊下を歩いている社員もエレベーターに乗っている社員も疲れていますという雰囲気を隠していない。
これは、想像以上かもしれない。
お母さんがいるフロアはもっと酷かった。
「おい。ここは戦場か何かか?めちゃくちゃ死にそうだぞ。人を殺しそうな目つきだぞ。心が荒んでいるぞ」
「そうね」
机の上でパソコンを必死で打っている人や、廊下まで響く声で何かの会議をしている人達など様々だ。
「つーか、普通は受付に来るもんじゃないのか?なんで、普通にここまで俺たちは来てるんだ?」
「さっき、受付のお姉さんが言ってたでしょ。こちらに降りて来られないため上にどうぞって」
「そーじゃねぇよ。どんなに忙しくても来るだろ。普通」
「キャパオーバーしてるからね。周りを見れば分かるでしょ」
「分かってる。お前の母親はもっと酷いぞ。ほれ、あれだろ?」
「………………」
あれ?
なんか………………
老けた?
「おい。お前、現実を見ろ。あれはお前の母親だ。酷い格好だが母親だ。ボサボサな髪でノーメイクで前髪を丁髷にしていてもお前の母親だ」
「言わないで。それは言わないで。というか、本人に聞こえるからやめて」
「マジでヤバイな。人間、忙しいと急に老けのか」
「だから言うな」
老けたとか本人に言えないから。
そんなこと言ったら大きな雷が落ちるでしょ。
大きなテーブルの上で生地を広げて選んでいるところのお母さんにゆっくり近づく。
「お母さん?」
私の声に反応がない。
「お母さん」
生地を見ながらブツブツと何かを言っている。
「おーい。老けてしまった凛のママさーん」
「ちょっと。なんてこと言うの?」
これは聞こえただろうとお母さんを見ると全く聞こえてなかったらしい。
これ、邪魔してもいいのかな?
誰かにプリンを渡して帰るべき?
でも、洗濯物あったな。
「麻矢さん。麻矢さーん。おーい」
「うわっ!!何!!この手!」
亜紀がお母さんの目の前で手を振った。
それには流石に気付いたらしくびっくりしている。
「お母さん。プリンのお届けだよ。どこに置くの?」
いつの間にか近くに空いている場所に置かれているプリンを見ながら言った。
「凛!いつの間に!声掛けてよね。びっくりした」
「声なら掛けてたよ。でも、全く気付いてなかった。忙しいんだね。洗濯物は?ある?あと、これが着替え。プリンはそこに置いておくよ。忘れないで食べてね。保冷剤入ってるけど日持ちしないから」
「あぁ、うん。ありがとう。ごめんね。家に帰れなくて。大丈夫?何か困ったことない?」
「大丈夫だよ。頑張ってね」
「なんだか、ずっと会ってない感じ。は〜ぁ、まだ終わらなくて。終わりが見えないからなぁ。もう暫くかかりそうなの」
「大丈夫。家も私のことも問題ないから」
お母さんは準備していた洗濯物を私に渡した。
私も着替えを渡す。
「亜紀君もありがとうね」
「顔が死んで「亜紀。黙って。もうしゃべるな」
言わせないから。
失礼なこと言わないでもらいない。
モチベーションが下がったら大変だ。
「じゃぁ、帰るね」
「うん。気をつけて帰りなさいね」
「うん」
短い時間だったけど、お母さんに会えたことが嬉しい。
会社から出ると空は少し暗くなっていた。
「あれ、プリンの存在忘れるぞ。大丈夫かよ」
「大丈夫。チラチラプリン見てたから」
きっとすぐに食べるよ。
少しだけでも休憩は大事だ。
家に帰るとカレーの匂いがした。
今日は仕事をしていないようだ。
終わったのかな?
「ただいま」
「おかえり。お疲れ様。亜紀君も。凄く助かったよ」
「危険手当くれ」
「今日はカレーだよ。しかも、カツカレー」
亜紀の危険手当は完全に無視だな。
「いや、無視するなよ。あの店、絶対にもう行かないからな」
「あそこの店長から電話があったよ。とてもいい子ですねって。どこで捕まえたんですか?って。良かったね。気に入られたみたいで」
「嬉しくねぇよ。全然」
足元に猫3匹が近寄ってきた。
今日は亜紀がいなかったから暇だったのかもしれない。
遊んでくれる相手がいなかったから。
カレーが出来る前に遊ぶか。
テーブルに置いてあったおもちゃを手に取って目の前で軽く振ると遊びだした。
3匹同時に遊ぶと結構迫力あるな。
おもちゃが壊れそうだ。
「麻矢はどうだった?元気だった?」
「老けてたぞ」
「亜紀君に聞いてないよ」
「マジで老けてたって」
「だから聞いてないよ」
いつもの言い合いか。
まぁ、静かな部屋よりいいか。
ちょっと………………
お母さんに会ったからなのか、寂しい気分だ。
早く帰ってこないかなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます