第57話
授業が始まると静かになり、いつも通りの授業風景だ。
聞こえるのは先生の声と教科書を捲る音と文字を書く音だけ。
お喋りをする生徒は誰もいない。
「さて、そろそろコンテストの時期になります。今回のコンテストはチームで取り組みます。コンテストは遠藤先生が担当になります。そして、評価が高いチームは商品化になります。つまり、学校で運営してるお店の商品になるわけですね。詳細は遠藤先生から説明されます。授業は今度の月曜日からです。みなさん、気合を入れて頑張りましょう」
チームか。
絶対に日向とファンクラブの輩とは一緒になりませんように。
最低評価は一度だけでいいよ。
私の心がズタズタになる。
休み時間。
短い時間でも日向の周りにはたくさんの人だかりが出来ていた。
殆どが日向の取り巻きだ。
「椎名さん。放課後暇?一緒にお昼ご飯食べない?」
「ごめん。迎えが来てるから」
「そうなの?それって、この前のイケメンさん?」
「違うよ」
「家族?」
「違う」
「彼氏?」
「違う」
「………………誰?」
「居候?」
「………………はっ?」
何言っているんだって顔だね。
なんて言えばいいのか。
「椎名さんの家って居候いるの?浪人?部屋賃貸にしてるの?」
「賃貸?してないよ。くだらない話だよ。本当に」
「くだらない話で居候はしないでしょ。親戚かなんか?」
「違う」
「関係は?」
「友達」
「友達!仲良いねぇ。つーか、その友達羨ましい。椎名さんのお父さんと毎日会えるじゃん」
言い合いを繰り広げてるけどね。
「友達もいい人だね。家からここまで迎えにきてくれるんだ」
いい人か。
いい人ではあるのか?
………………。
違う意味でいい人ではあるかもしれないけど。
授業開始のチャイムがなり、大塚さんは自分の席に戻る。
日向の取り巻きも慌てて教室から出て行った。
また、静かな授業の時間だ。
授業だけだな。
あとはうるさい時間だ。
早くどうにかなってほしいのに。
ジワジワと攻めているのだろう。
そんなことを思いながら教科書を開いた。
午前中の授業が終わり、みんな帰り支度をしている頃。
私も帰り支度を終えて教室から出た。
「椎名さん。サークルに行かないの?」
後ろから声を掛けてきたのは日向だった。
日向の隣にはファンクラブらしい子がいる。
日向の腕をがっしりと掴み離そうとしない。
「行かない」
「京都の件は?早めに言わないと行けなくなるよ」
「今日は用事があるから」
そう言って早々と校舎から出た。
バス停とは反対に道を歩き、お店がある場所を目指す。
お店が見えて来ると駐車場も見えた。
車は………………
まだ来てない。
なんだ、私が早かったか。
そうと分かればお店に増設されているカフェに入った。
カフェオレを頼んで亜紀が来るを待つ。
お腹空いたなぁ。
お昼の時間だし。
お昼、どうするのかな。
聞いてなかった。
どっかで食べる?
「椎名さん。用事ってカフェ?」
………………。
何?
まさか、私のこと追いかけて来たわけ?
横を向くと日向と先程の女がいた。
さっきはよく見てなかったけど。
この女、どっかで見たな。
丸メガネで口元に黒子。
………………。
なんだっけかなぁ。
「ちょっと、日向君が話しかけてるのに無視とかしないでよ。あり得ない」
「無視ではない。ちょっと考えてただけ。そっちはなんでここに?」
「ここでお昼を食べるから。それ以外何があるって?ここのランチ美味しいから。あなたは、そんなことも知らないの?」
馬鹿にしたような言い方しなくても。
それと、勝ち誇った顔しなくてもいいよ。
日向に興味はないから。
それより、この女の身元だ。
どっかで………………
あぁ、海が見せてくれた写真の中にいた。
ファンクラブの子だ。
確か、幹部らしい立場とかなんとか言ってたな。
幹部って………………
会社じゃないから。
「一緒に食べる?お昼ご飯食べるために来たんでしょ?ここ、早く行かないとランチ終わっちゃうからね」
日向の考えは外れている。
お昼を食べに来たわけではない。
プリンを買いに来ただけだ。
「ねぇ?日向君。早くしないと売り切れになっちゃうよ。この人はほっとこう。コーヒー飲んでるし。お昼を食べに来たわけじゃないと思うよ」
おっ、女は意外と頭の回転が早いようだ。
「私、お昼を食べに来たわけじゃないから。待ち合わせしているの。友達と」
「ほらっ!違うって!早く頼もうよ。早く食べて行かないと。会長に怒られちゃうよ。待ってるよ」
聞きたくないワードが聞こえた。
今、会長って言った?
言ったよね?
もうこの2人など無視でいいかとカフェオレを飲んでいる時、人影が視界にチラついた。
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